tartaros 　―タルタロス―

　就活のために履歴書を書きながら。

　最近、自分は何を目指しているのかよく解らなくなってきた。
　大学進学者への劣等感を抱え込んだ俺は、高校卒業後に手当たり次第に興味のある書物を読み始めた。結果、本棚には歴史・文学・哲学・社会学・政治学・民俗学・文化人類学・漫画・ライトノベルなど、非常に節操の無いラインナップが築かれることになった。
　
　しかし、いくら読んでも「何にも」追い付けるような気がしないし、「何にも」成れているという気は一向にしない。

　専門学校という教育機関は、就職のための職能を身に付けんがための場所だ。だから、そこで求められるべきは即戦力となるべき現実的知識であって、机上にあって捻くり回すための学問的知識ではない。だというのに後者を求めるのはある意味では非常に愚かではあると思う。教養・知識を身に付けるべきだと世人は言うが、大学機関で得られるものと、自己本位に読書で吸収しようとするものとではどちらが優れているのだろう。
　などと思ったが、よく考えてみればこの二つの状況を比較するというのもおかしな話であって、立身出世のために学歴を涵養するシステムという側面を大学が持ってしまうのであれば、教養とか知識などといった高尚な（？）ものを得るために行く場所ではなくなってしまうではないか。
　別に自分が大学生より優れているなどと身の程知らずな言説を行うつもりは元より無いけれども、教養や知識を自己で身に付けても、社会はどうしても然るべき機関の出身であるかどうかという点でその人間を測ることに比重を置くのだ。だから責められるべきはそのチャンスを一度は手にしておきながら面倒臭がって放逐してしまった俺自身なのだが、それで一念発起して身に付けた知識というのが実社会で役に立つのかという一点においては甚だ謎である。
　裏を返せば、大学に進まずとも独学（笑）である程度の知識は得られるということなのだが、それを眼前に在る相手にアピールするのは限りなく難しい。大学というブランドがある程度普遍化し始めた現代、大学間にあっても厳格なランク付け的なものが存在しているくらいだから、そのさらに下には厳密な不可視の「隔て」がある。それを無理矢理にこじ開けるのは安楽に得た知見ではなくて、己の優秀さをアピールする能力だ。「嚢中の錐」の故事にも見られるが如く、優れた人というのは自然と凡俗さの中から頭一つ抜け出るものである。仮に俺が袋の中に投ぜられた錐であったとしても刃先がナマクラでは意味が無い。

　だが、そもそも俺は錐になど成れるのだろうか。
　元々が劣等感からの逃避ということでガムシャラに知識を求めてきた。その結果として以前よりも遥かに多く物を知ったと思うし、ただ溜め込むだけではなくて、それをどう使って思考するかという能力もある程度は備わったように成長した自信はある。だが、それが生きていく上で真に必要な知識であるかどうかとは「≠」なのだ。

　どだい、俺の興味の対象というものの一端がそうした学問的な物に向けられているせいでこうした悩みが出て来るのかもしれない。いっそのこと、刹那的で享楽的な生活を送るような人間になれれば良いのかもしれないが、それをも明確に拒否できるだけの意識が定まっているのでもはや難しいだろうが。




　……というか、こういう愚痴をいちいち書き連ねるから駄目なヤツなんだろうな。早く志望動機を考えろ。