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カテゴリ:カタコト
あぁ退屈だ。
先生がなにやら三角関数の公式を熱心に黒板に図示さえしながら説明しているのをそっちのけで窓の外を眺めながら嘆息する。 そんなことはわざわざ説明しなくても教科書に載ってるのだから読めばわかるだろ。 全く持って退屈だ。 この17年あまりの人生において何回この言葉にたどり着いただろう。 俺は小さい頃から、まぁいわゆる天才型ってやつで、興味を持ってやり始めたことは大抵人並み以上にできた。 興味のないものはどうかって? 興味のないものは全くやらないから知らないさ。 まぁそんな感じに天才型だったからこの歳になっても努力っつーものを覚えなかった。 まじめに取り組んだ記憶があるのは小学校に入ったばかりのころ、なんとなくカッコイイからという理由で始めた剣道と軍隊格闘術くらいだ。 それでも軍隊格闘術は一通りやって、飽きたからやめたし、剣道も小学校6年生の時に道場の先生に強引に勧められて出た大会で全国4位に納まった時に飽きた。 その後中学時代にはこれまたカッコイイからという理由で居合いにはまって、作法やら礼儀やらが面倒だからという理由で中3の時にはやめていた。 でもまぁ、どれも筋がいいとか才能があるとか言われてやめる時はえらく引き留められる程度の実力はあるらしい。 だからといって特にそれを誇ろうとは思わないが。 なぜなら俺は、上には上がいることを知っていたし、その域に到達するにはそれなりの代償が必要なことも知っていたからで、まともに張り合うのも馬鹿らしいと割り切っていたのだ。 まぁそんなアマチュア以上プロ未満なモチベーションだから中学高校の先生達も手を焼いただろうし焼いてるだろうなぁと思うのだ。 高校入試の自己採点ではたぶん2問くらいしか間違わなかったみたいだから、いわゆる有名な進学校にもいけたにもかかわらず、家が近いという理由だけでこの高校を選んだし。 下手にテストの点がいいもんだから、多少授業態度や生活態度が悪くても先生方は何も言えない。 でもって、ノートの提出率が悪いしいろいろと問題があるのに、委員長や生徒会といったものには積極的に参加しているのだ。 たぶん、大学受験も高校受験と同じような感じになるんじゃないかなぁなんて思ってるのだが。 まぁそんな人間なわけだが、天才だからと言って他人の努力を認めない人間じゃないので悪しからず。 小さい頃は俺に敵わないとわかっていてもずっと付き合ってピアノやら読書やらトランペットやら何から何まで、あげくの果てには剣道やら軍隊格闘術やらにまで手を染めた幼なじみの国崎を尊敬してたしな。 あぁ懐かしい。あいつがいなかったら俺はもう少し捻れた人格をしてただろうよ。 そんな感じに過去に思いを馳せているうちに授業は終わっていたらしい。 同じく生徒会に所属していて2年にあがった時に同じクラスになった藤田が話しかけてきた。 「神崎ー。先に生徒会室行ってるぞー」 「あぁ悪い。今日はあいつの所に行くからパスだ。 どうせ今日は何もしないだろ?お前から伝えといてくれ」 「あ~、了解」 言うが早い、藤田は教室から出て行った。 特に詮索もしないのは毎度おなじみの会話だからだ。 そう、今日はあいつ…国崎の所へ行く日なのだ。 詳しいことは知らないがあいつは中学のころから学校を休みがちになった。なんとか俺と同じ高校に入ったまではいいが入学式の次の日からいきなり入院だ。出席日数は大丈夫なのかかなり疑問だが、一応俺と同じクラスに在籍してる以上はなんとかしたんだろう。 まぁそれはどうでもいいんだが、いつの間にか週に3回はあいつの所へ行くのが決まりになっていた。まぁ俺も特にすることがないし問題ないのだが…。世の中には暇なやつがいるもので他人のことには無意味に首を突っ込んでくるやつがいるのだ。あいつと俺の関係をいちいち詮索してきて、その度にいちいちテンプレートの説明をするのは面倒なものだ。でもまぁそれも新学年になってしばらくしたらなくなるのだ。ほんとに毎度おなじみのパターンになりつつある。 とまぁ毎度同じ道を通って同じ病院に行く時に同じ事を考えてることに失笑しながらいつも通り歩いていた。後になって思うのだがこの日がほんとにいつも通りなら俺はどれだけ楽だったろうか…。 病院が見えてきてあと10分ほどであいつの病室に行けるだろうと思う頃になって俺は我が目を疑った。目の前に巨大な昆虫がいるように見えたからだ。たぶん体長20センチくらい。トンボみたいな羽が背中に生えている。 「あなたが神崎拓人?」 あまつさえ日本語を話した。俺が普通の人間だったらよかったんだが…。俺は普通に質問に答えてしまった。 「そうだが?お前はなんだ?」 「私は妖精のチロだよ」 「そうか、いわゆるピクシーというやつだな」 「そうそう、よく知ってるわね」 「それで、用件はなんだ?」 「う~ん。ぶっちゃけると私たちの世界を救ってくれない?」 「は?」 「あなたは勇者なの。だから私たちの世界を救えるの。だから救って?」 「………………」 俺は沈黙した。 続く お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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