|
カテゴリ:カタコト
「あなたは勇者なの。だから私たちの世界を救えるの。だから救って?」
「………………」 俺は沈黙した。 一応断っておくがこの沈黙は思考が追いついていないためのものではない。純粋に迷っていたのだ。これに付き合うか病院に行くかを。学校が終わってすぐに行かないとあいつがごねるのは確かなんだが…。常日頃から退屈だを連発している俺としてはこの微塵も退屈を感じさせなげな提案に魅力を感じていたりもする。 でもまぁあれだ。こんなところで妖精さんと会話していたらおかしな人物だと思われるのは必至だろう。さて、どうしたものか…。ファミレスや喫茶店に入ればその効果を倍増しかねないし…。 そうだな。確か病院の近くに公園があったはずだ。この時間なら人も少ないだろう。話を聞くだけ聞いてつまらなければ病院にすぐ行けるしな。 「詳しい話を聞きたいんだが、場所を変えてもいいか?」 「やる気になったの?もち、どこでもいいわよ」 まぁ別にやる気になったわけではないわけだが問題ないだろう。 「で、何故俺なんだ?」 公園に場所を移し話を切り出した。 「う~んとねぇ。あなたには特別な力があるからなの」 「どんな?」 「それは…」 こいつ…たしかチロとか言ったか。まぁこいつの話をまとめるとこんな感じだ。 どうやらこの世界の人間には全員が全員特殊な力を持っているらしい。んで、あっちの世界にはそんな能力を持った人間はいないようだ。んで、その能力っつーのが役に立つものから全く役に立たないものまでたくさんあってだな。俺のはどうやらかなり優秀な能力らしい。さらに、なんだかよくわからないが俺はある人物に選ばれた人物らしい。 そもそも、なんで勇者なんかを求めているかというと、どうやらあっちの世界とこっちの世界のバランスが崩れてきていてだな、んで、その正常化に俺が必要だということらしい。 「それで?具体的にはどんな能力が存在しているんだ?」 「う~んとね。たとえば歯ブラシをくわえていると目が覚める能力とか」 「他には?」 「トマトを食べると歯茎から出血する能力とか…」 「…。そんなのばかりなのか?」 「あなたのは割と役に立つわよ?」 「そうか」 「勇者に選ばれた人の能力が使えなかったら私たちは絶望するしかないじゃない?」 「まぁそうだな。それで、俺の能力は?」 「それを聞くって事は世界を救ってくれるのよね?」 「俺に救えるのならな」 とにかく俺の能力を知りたかったんだが。全く持って迂闊だったよ。 今は反省している。 「あなたの能力は…そうねぇ、絶対に致命傷は受けないみたいね」 「なんだそれは?強すぎないか?」 「条件があるのよ。特定の条件を満たさないとダメなわけ」 「そうか。少年漫画とかによくあるパターンだな」 「よくわからないけどそうよ」 「それで?条件というのは?」 「ん~とね。特定のアイテムを持ってないといけないみたい。種類がいっぱいあるから何とも言えないんだけど…。例えばね、杏子ジャムってあるじゃない?あれを持ってたらOKみたいな」 思っていた以上にお手軽なアイテムでいいようだ。 確かに考えてみれば杏子ジャムを持って何かをするってことはほとんどないからな。たぶん聞かなかったら一生気付かなかっただろう。こんな感じに条件があるんだったらみんなが気付かないのもよくわかるな。納得だ。 「それでね。私の能力は」 「ちょっと待て。あっちの世界…お前にとってはこっちの世界だが、には能力者がいないんじゃなかったのか!」 「人間はいないって言ったけど?私は妖精だもん。それでね。私の能力は能力を教えた人をこっちの世界に強制送還するって能力なの」 と言ってまさに妖精の微笑みを見せた。 しまった。かなり迂闊だった。そうだな。能力の話を最後にしたあたり怪しいとは思ってたんだ。つーか普通は知り得ない能力の秘密を知ってしまったんだ。そう易々と逃れられるわけがない。人生最大の汚点だ…。なんて思っている間にみるみる周りの景色が地面に溶けていった。 全く。何でこんな事になったんだ。 続く お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.06.10 17:36:47
コメント(0) | コメントを書く
[カタコト] カテゴリの最新記事
|
|