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カテゴリ:書籍
物語は映画撮影のロケを舞台とした憎悪劇です。
ディレクター・映画監督・撮影監督・主演男優・主演女優の5人のエゴがモア正面からぶつかりあって、話は読み初めからは及びもつかない展開になります。 私も最後まで読み終えて『なんじゃこりゃ』と思いました。 印象に残ったのは登場人物の内と外とのギャップ。 映画撮影という目的のために押えている感情の片鱗と、それが剥き出しになったときの暴挙。 『光源』に照らし出されてコントラストがはっきりしてしまったその姿は実に生き生きとしています。 ただそのとき読者という立場から物語を見ると、思わず笑ってしまうんですよね。 だから次を読みたいというのは何も感情移入しているからではなく、登場人物たちの演じている劇がおもしろいから。 『光源』を持っていないのは読者だけです。 5つの1人称視点を併用する構造のため、それぞれの視点から相手の感情・意図を完全に把握できなければなりません。 そのため彼らのそれぞれに『光源』は不可欠です。 読者は、5人が暗闇の中で互いに懐中電灯を使って顔を照らして相手を威嚇しあっているのをただ眺めているだけです。 それが滑稽に見えてしまうのは、やっていること自体が非常に滑稽にだからでしょう。 4人はその時の視点人物の目を通して滑稽であり、残りの1人は自分が滑稽である事に気付いていないのが読者という視点から見て分かってしまい滑稽です。 そして最後に『光源』が向けられるのは読者自身です。 視点を全て網羅した読者の中には、読み終わった後ちゃんと一筋の物語が出来上がっているのが浮き彫りになります。 物語は多くの視点を用いていたため、読んでいる最中は支離滅裂な内容だと思っていた矢先の出来事だったので、なんとなく騙された気分です。 分析してみるとこんなところです。 作者がどのような意図で書いたのかは分かりませんが、ストーリーはあまり重要ではありません。 登場人物も『光源』を皆持っているため実在しそうもありません。 それよりも推したいのは、物語を読んでいて『なんじゃこりゃ』、物語を読み終わってから『なんじゃこりゃ』と思ったときに思わず笑えてしまうこと。 表面だけを見るなら、そんなささいな楽しみが一番のポイントだと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006/02/27 09:38:44 PM
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