Chassagne Montrachet Les Blanchot Dessus 1997 (Darviot-Perrin)
少し歴が長くなったブルゴーニュ愛好家ならシャサーニュ村の東部を貫通する国道6号線の東側(Puligny側)の幾つかの畑に興味を持っているのではないだろうか。GCのCriot Batardは別にしてBlanchot, Dent de Chien, BlanchotとMontrachet、Batard Montrachetに隣接していて如何にもGCになりそうなクリマで有る。実際この辺りの生産量は凄く少なく市場で見かける事も中々無いので想像を益々かき立てられる。 当たり前だがブルゴーニュのアペラシオンの策定に当たっては勿論歴史的な経緯やそこから作られるワインの質が主に鑑みられているが、最終的な線引きに当たっては当該の個人や村々の意向により政治的判断が働いている。修道院が深く関わったCdNでは線引きは比較的穏やかに決着しているが(それでもCharmes Chambertin等のquasi-Chambertinのクリマは若干揉めた)、そういう修道院が余り関わっていないCdBではかなり揉めている。Cortonを巡るLadoix-Aloxe-Pernand三村の確執や特級格付けを直訴したPommardの一揆的騒擾については前にも書いたが、Batard, Chevalier, MontrachetのCdBの至宝とも言える白のGCの策定に当たってはPuligny、Chassagne両村のかなりの確執が有った。 去年鬼籍に入られたブルゴーニュの歴史家Jean Francois Bazin氏のLe Montrachet(1988)にその辺の経緯が詳しく述べられている。今日はこのワインに因むBatardの策定の経緯をその中から少し紹介しておく。 Batardのアペラシオン策定が揉めたそもそものきっかけは1840年の土地登記の際にBatardのDivisionの下にSubdivision(大字と字の関係に喩えられるだろう)として Batard以外にLes Criots、Blanchot Dessous、Vide Bource、Les Encegnieres(以上Chassagne)、 Bienvenue (Puligny)の5区画が含まれていた事だ。1860年のCAB(ボーヌ農業委員会)の最初の格付けではこれらの5区画に関してBatardと名乗る事は認めてはいない。1937年から始まったFerre Commissionのアペラシオン策定作業ではこの1840年の土地登記に立ち返って公聴会で意見を聞くと、Pulignyの生産者は何とBatardをCailleret, Pucelles, Folatieres等のクリマもBatardに含める様要求、対するChassagneはBatardを(Puligny側に)拡張するのならばChassagne産の全ての白ワインを全てBatardで出荷すると呼応、更にBatardとBienvenueの地主連合のBatardと呼ぶのはBatardとBienvenueに限るという提案はChassagne, Pulignyの両村から強硬な反対意見が出され、八方塞がりの状態となった。 ここからが面白いところであるが、Ferre Commissionは産するワインの質に目を付けたのである。1860年のCABの格付けでは特級格はBatardの上半分だけで下は一格落ちるとされていた(写真参照)。これは下半分が粘土質で当時赤が主体で有ったためだ。妥協案として出たのはBatardの下半分も含めてGCとする一方(これでBatardの土地所有者の反対意見を封じる)、所謂Chambertin方式(なんとかChambertin)でこれらのSubdivisionの畑のうち、(質の良い)Bienvenue、Criot、Blanchotに関して、それぞれBienvenue-Batard-Montrachet、Criot-Batard-Montrachet、Blanchot-Batard-Monrachetを新たに策定するとの答申の草稿を纏める。だが最終稿ではBlanchot-Batard-Monrachetは除外。本中には理由は書いていないがPuligny側に新たなGCを一つ作るのに対し、Chassagne側に2つGCを新設することに対するPulignyのObjectionであったろうことは想像に難く無い。さて少し長くなってしまったが、このワインが「幻のGC」で有ったことが少しお分かりいただけだろうか。 肝心のワインだがこれは素晴らしく良かった。余り日本では知られて無いが、名手。膨らみは全く感じさせず、スレンダーで気品高い。明らかに国道の西側の畑のワインとは素性が違う。20年以上経ち、ワインは少し落ち始めているが酸化の苦さは全くなく、 透明で球体を感じさせ、フィニッシュも長い。どちらかというと厚ぼったいBatardではなく、さらっとしたMontrachet古酒に近いように思う。個人的にはCriotをGCとするのならばこちらをGCにして欲しかったように思った。