カテゴリ:作家
だれもいなくなった深夜のロビーにタクシーをまっていると、エレベータからアオキが降りてきた。
「遅いな」 「そうだな」 すでに終電は終わっている。 「なにしてるんだ」 「車を呼んだ」 「拾えばいいのに」 外はどしゃぶりだった。 「たぶん拾えないさ」 「帰るのか」 「わからない」アオキは伏せ目のままで言った。 「こんなに遅くまで、僕らはいったいなにしてるんだろうね」 「神妙だな」アオキの表情を覗き込むように言った。 タクシーのヘッドライトがビルのエントランスに近づいてきた。雨は激しく、止む気配もない。 「乗っていくか、送るぞ」 「そうだな」 「アオキどこだっけ」 「東中野」 「反対だな」 「どこかに寄るか」 「今夜はよすよ」 「そうだな」 男たちはタクシーに乗りこんで、やがて首都高をながれていく。 「なにか用事だったんだろう、ぼくに」 アオキは不意をつかれた様子もなく 「そうだ」と言った。 「でももういいんだ、たいしたことじゃない」 「やけにおもわせぶりだな」 時計は午前2時を指している。 雨は、寡黙になってしまったふたりにふりそそいでいる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Dec 12, 2007 09:28:19 PM
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