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カテゴリ:想い出
卒業式シーズン。出会いと別離。
毎年この時期になればいつも思い出す。 結局、奴らとは花見行ってねぇなぁ。。。。 桜の開花も待たずに逝ってしまった男とその彼女。。 僕がサラリーマンとして横浜で働いていた頃に、弟や妹のように可愛がっていた後輩がいた。 ガッシは同じ北海道出身だったこともあり、彼の入社当時からあっちこち連れ回していた。 早口の故郷訛りで、ため口で話すこともあるけど、どこか憎めない陽気なロックンローラー。 海だろうが山だろうがどこでも一緒に行動した。 週末はシブヤにナンパ三昧。また二人で企画した合コンは数知れず。 かなりのカップル誕生に貢献してきた。 そんなある日、ガッシは彼女を連れてきた。 くりっとした良く動く瞳が特徴で、ぱっと見た感じ高校生くらいにしか見えない小柄な女の子。 少なくともガッシとは一緒にナンパした仲だからこそ判っているのだが、 ガッシの好みからは大幅に外れているとしか思えなかったそれが第一印象である。 名前はねジーン。よろしくね 本当は仁美っていうの。だからジーン。 僕の顔を覗き込むように話してくる。わけもなくドキドキした。 ガッシがにやにやしている。 何照れてるんですかぁ。まだまだわけぇなぁ。 うるせーぇぞこらぁ。 ムキになって言い返す。 それでも何だか悪い気はしなかった。 彼女は新しい秘密の扉を開いてくれそうなそんな期待感を抱かせてくれる。 初めて出会ったタイプに心がときめいた。 ねぇ、○○(僕のこと)さぁ。お腹弱いんだって。ガッシに聞いたけど。 そうだね。朝なんかいつも大変だよ。 ふーん。ジーンはね朝トイレでうんちなんてしないよ ・・・替わりにねマシュマロをポロポロ。 はぁ?・・・・マシュマロォ。。。 そうピンクのマシュマロ。。。 ・・・ウフフ。 ・・・そう考えれば辛くないじゃん。 ・・・そう思うのよ何事も。 ・・・ふーん。 不思議な会話のキャッチボール。 それでいて細かい気配りが出来る娘だった。 初めて会ったこの日、夜が明けて一日中で最も静かな時間帯に差し掛かっても 僕らはファミレスで話し込んでいた。 世界のルールは僕らが決めている、そんな風にも感じた。 それからは3人一緒。 海だろうが山だろうが3人で一緒に遊んだ。 たまには二人きりで遊びにいけよ。と意見しても彼らは取り合わなかった。 いいのいいの、この方が楽しいじゃない。それともジーンのこと嫌い? いやそんなことないよ。僕は苦笑いするしかない。 確かにガッシとジーンは、 この街で身内のいない僕にとっては大切な兄妹だった。 彼らと遊ぶこと以上に楽しいことは無いような気がしてた。 実際無かった。 悲劇は突然訪れる。 体調が良くないとこぼしていたガッシ。 おい病院いけよ。 いや大丈夫だって、仕事で疲れているだけだって。 そういう彼をジーンと一緒に無理矢理病院に連れていった。 結果は悪性の腫瘍。 ドラマのような結末。 ジーンからこのことばを聞いたとき、目の前が真っ暗になった。 うそだろ。なぁ。海も山もシブヤの街もガッシの笑顔もみんなごちゃ混ぜ。 どうしていいのか。どうすればいいのか。 とても正気じゃいられない。 吐き出すことばが見つからない。 沈黙が続く。時計の音が心を刺激するほど。 突然ジーンが呟いた。 ガッシがね。ガッシが一番辛いと思うの。 だから強くなろうよ。ねぇ○○が挫けちゃだめだよぉ。 ジーンが泣いていた。 鼻垂らしてしゃくりあげていた。 こんなに涙が似合わない女は見たことがない。 なんて声を掛ければいいのか判らなかった。 ただ目の前のジーンを見つめ続けていた。 それからのジーンの介護は凄まじさを超えていた。 献身的に尽くすという行為を考えると彼女以上の人を未だに見たことはない程。 季節が変わっても彼女の姿勢は変わらない。 ただガッシの症状も変わらないことだけが誤算だが。 2月。雪の舞い散る寒い日に僕はいつものように果物を買って病院を訪れた。 奴の大好きなパイナップル。 ジーンはその日、月末の残務が残っていて来ていなかった。 とりとめのない話し。 1m先の彼の顔には明らかに死相が漂っている。 確実に死が近づいていた。素人でも判る。 やりきれない思いを悟られないように気を配る。 そう言えばガッシとジーンで花見行ったことねぇよな。 花見ですか。ウーン。 それよりも○○さん、俺が退院したら合コンやりましょうよ。 ジーンには内緒で。 無理、無理。昔、内緒で合コンやって、ジーンにばれたときあったべ。 あのとき大変だったんじゃなかったか。 そうそう、アイツ見かけによらず気が強くてさぁ、 留守電のテープが切れるまで死ね死ねっていれられたんだ。ヘヘッ。 弱々しくガッシは笑っていたけど、僕は笑えなかった。 死ねなんて縁起でもねぇよ。冗談でもいえない状況だった。 窓の外は雪が舞っていた。 じんわりと無言の空気が僕とガッシを覆い始めていた。 もうすぐだからな頑張れよ。また寄るよ。 あいあい。 帰り道、とめどなく涙が溢れてきた。 泣きながら駅で切符を買う僕を、周りの人は不思議そうな目で見ていた。 なんにも出来ない自分が悲しかった。 パイナップルを買って持って行くことしかできないのだ。 明くる月の3月、桜の開花も待たずにガッシは逝ってしまった。 葬式でジーンは気丈に振る舞っていた。 空っぽの葬式だ。そこに実体なんかない。 式も落ち着き、ジーンに声を掛けた。 どう・・大丈夫? うん・・・やれるだけやったからね。 もう吹っ切れたよ。 意外にサバサバしていた。 それからは月に一度は彼女と食事した。 とりとめのない会話。今忙しいのそんな感じの話題で繋ぐ。 お互いにある一点を徹底的に避けていた。そうガッシのこと。 そして3人で行った海も山もあの街のことも。 しかし想い出は濃密なまま心に漂っている。所詮無理がある。 はずれしか残っていないくじの箱をかき混ぜているような空しさ。 きっとジーンもそう感じていたに違いない。 からから屈託無く笑ってくれている。それがせめてもの救いだ。 少しずつ良い方に向かっているのだろう。 そのときはそう信じていた。そう信じたかった。 そして冬が近づく秋の日、残業して帰ってきた僕は、 留守電のランプが点滅しているのを見つけた。 20件。 僕の旧式の留守電では最大の伝言件数だ。 1件の伝言時間は40秒。 間違いない。 全てジーンからの電話だった。 彼女の話を要約すると、 もう会えない。これ以上会えない。 明日にも住んでいるところを引き払って故郷に戻るつもり(彼女は関西方面の出身) この街には色々な想いが溢れすぎていて耐えられない。 とても時間で解決できそうにもないから。 そして中盤は、あそこに行ったよね。ここでケンカしたわ。ガッシはねぇ。 そんなふうにランダムな想い出話しが続いていた。 後半のジーンは泣いていてことばになっていない。 しゃくりあげ鼻をすする音が受話器の底から流れてくる。 僕は黙って聞いていた。涙の似合わない女の顔が浮かんではまた消えた。 そして最後の20件目、 一つ聞いていい?・ところで・・・○○は、それで終わり。 まるで映画のエンドロールのように。 続編もなく結論も聞けないままに。 このとき僕のすべきことはもう何も見つからなかった。 彼女にとって、差し延ばした僕の手はおもちゃのマジックハンドにしか過ぎなかったのかも知れない。 それはそれで仕方がなかったのだろうか。 精一杯だった。僕が出来ること全てだった。 誰もが必死で生きていた。ガッシもジーンも僕も。 ぶつかって転がり泣いて笑った青春の蹉跌。 ジーンは今なにをしているのだろう。 ピンクのマシュマロのこと今でも話しているのだろうか。 それでも何故か、 いつかどこかで会えると思う。 そんな気がする。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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