and I Love Her
空は曇り空が広がっている 風は冷たいけれど 窓を開けて私は一息ついた 目の前においてある大きな紙袋に手を入れて 上から順に机の上に出し始めた 袋の中一杯に読み終えた文庫本が入っている いったい この袋の中に何冊入っているのだろう 今朝 目が覚めてから 読み直したい本がある どこにあるのだろうか・・・と思い この季節になると 読みたいと思うのだからきっと そう・・・きっと その袋の中に 底の方に入っていると そう・・・信じて その袋の中に 手を入れ始めた 上から数冊づつ取り出して 次から次と表表紙を開いてみる 色がかわっていなければ ほとんど真新しい本に見える 私は 本に折り皺をつけたり見開きの癖をつけるのを嫌う 文庫本はその一冊一冊に丁寧にブックカバーも掛けてある あまりの本の数量に 気が向いて探し出そうとすると とてつもなく時がかかる 新しい本を買ってきて読んだほうが ずっとましな気がする 小説は一度読むとほとんど 頭の中に残り 数ページ進むとはっきりとストーリーがよみがえるものが多い 真新しいうちに古本屋へ売ってしまえば良いのだろうけれど 一度手にした本は手放すことが出来ない 袋の中の本は もうだいぶ減っている もしかしたら このなかには ないのかもしれない 文庫本だけで数百冊になると思われる 引越しするときに 今の住まいが鉄筋作りでよかったと 引越しを手伝った人たち全員から言われた ほんの重さで木造だったら床がぬけてる・・とも 衣類よりも本の入った袋が多かった 作者、または 傾向によって本は縛り カバーをはずさなくても良いように束の内容を白紙にかいて挟んでおいた そのまま縛ったままで書棚の代わりのボックスに全部立ててしまった そのうち紐を解こうと思いながら もう何年になるだろう いちどバラバラにしたら もう 秩序ある本棚にはならない気がした 目当ての本を探しながら タイトルを読み続ける 誰しもが 経験することだろう 本のタイトルを観ると その本を手にしたときの自分の状況や環境がよみがえる 袋の中からは お目当ての本が見当たらない 袋のそこが見えてしまった 「はぁ。。」ため息が出てしまった あの紐を解かないと読みたい本が取り出せないと言うことだった 毎年 この季節に読みたいと思いながら 同じことの繰り返しをしていることに 今更気がついた さて。。。 ブルーブラック色の文字で書いてある小説を どこから発掘したらいいのだろう あらたに購入と言っても 絶版になっているのだから どこかの古本屋にでも行かないとみつからない 折皺のない古本など 手に入るはずも無い あの山をくずすのか。。 ブルーブラック色の文字で書かれた小説を なぜ 急に読みたくなったのか 見知らぬ人のブログに書かれた文字に 『甘えていいんだよ』 そう書いてあった どういうわけか その文字を見たときに自分の学生時代のころを思い出していた 『気まぐれお嬢。我侭だな。。。甘えたかったらちゃんと甘えろよ』 そんな一言を言われたことを思い出していた 恋人ではない ごく普通のボーイフレンド 男女が入り混じった仲の良いグループのひとり 帰り道が同方向だったから 途中の駅でばったり出くわすことが多かった 決まって まっすぐに家に帰らずに寄り道を考えていると どういうわけかその彼に見つかっていた 「おおい またかあ??」 関係ないでしょ・・勝手にするわ 「今日はどちらまで??」 決めてないわ。。。 そう。。私は何も決めていない。 ただ ふと 人ごみの中を歩きたいだけ ふと 誰もいないような 静かな場所を歩きたいだけ おい・・まてよ。。 といって彼はついてくる 一人で大丈夫だからいいよ・・ 彼は黙って 知らん振りして横を歩き始める ふらり 海へ行くことも 東京タワーに上ったことも 新宿の高野の前の横断歩道を渡ったことも 都内の高層ビルの展望台へ上がったことも 「おい・・いい加減 帰れよ。もう気が済んだだろう。」 プイっと 返事もしないで私は帰りだす 夕方のラッシュのピークを迎えきっている そんな電車に乗って のろのろと帰りだす 「ほら ちゃんとついてこいよ」 私はのろのろと その後をついてかえる こんなところまで どうやってきたのだろうと ふと 思うときもあった 帰るときは どうしてこんなところまで 来ているのだろうと 思うこともしばしばだった 電車を降りて駅から歩いて12分の距離で 自宅があった 「さっさと帰れ」 後ろから 彼はついてくる ほとんど会話も交わさずに私は前を歩き 彼は後ろをついてくる 時々空を仰ぐと 月や星が見えていた 家の明かりが見えてきた 門の前に立ち振り返る 「また あしたな!」 「また あしたね」 「おまえさ。。」 「なに?」 「気まぐれお嬢。我侭だな。。。甘えたかったらちゃんと甘えろよ」 その声を無視して 私は 何事も無かったように 玄関のドアを開けて 家の中に入る そのあと 彼がどうやって過ごして自宅へ戻ったのか 私はまったく知らない 訪ねたことも無かった 翌日 学校で会えば いつもの仲の良いグループのひとり おたがいに・・・ ふらりと出かけた先で いったいなにをしていたのか。。。 私は 声も出さずに 一人泣いていた 毎日 鞄の中にしまい運んでいた本を 今日は読みたい ひとり通学途中の電車の中で読みふけた本を 今日は読みたい 黙ってれば可愛いのになあと言われながら読んだ本を 今日は静かに読みたい そんな時代に 大切に読んでいた本を 今日は読みたい 『and I Love Her』