越権行為じゃない?
当たり前のことですが、解剖は亡くなってからでないと出来ません。医療が適切であったかどうか、解剖所見を元に論ずるのは後出しジャンケンのそしりを免れないでしょう。もちろん今後に生かすためのカンファランスで論ずるのは問題ありませんが、診断や治療を批判するのであれば、生前のデータを用いるべきです。 また、法医学者は臨床医ではなく、いわゆる基礎医学者です。アルバイトで診療を行うことはあるかも知れませんが、基本的には、診療技術はプロではありません。法医学者は解剖所見だけを提示し、診療内容の可否の判断は臨床医に任せるべきでしょう。「治療適切なら救命も」 殺人事件で解剖医証言 10/06/23記事:共同通信社 同居の男性を刺殺したとして殺人罪に問われ一審で懲役9年とされた無職出口志津子(でぐち・しづこ)被告(40)の控訴審公判が22日、札幌高裁(小川育央(おがわ・いくおう)裁判長)であり、司法解剖を担当した医師が、搬送先の病院が適切な治療をしていれば「助かった可能性があった」と証言した。 医師は弁護側証人として出廷した旭川医大の清水恵子(しみず・けいこ)教授。証言は、殺意や刺傷行為と死亡の因果関係を否定した被告側主張に沿った内容で、殺人罪の成否をめぐり二審の判断が注目される。 清水教授は証人尋問で、男性の搬送先の病院が、胸部にたまった血や空気を適切に除いていれば救命可能性があったとした上で、司法解剖の鑑定書に記した同趣旨の指摘について「(検察に)一部削除を求められた」と明かした。 また、一審判決は「首に向け包丁を振り下ろした」として殺意を認定したが清水教授は「刃の向きは水平だった」と指摘。「解剖内容を理解してもらっていたら、(判決は)違った」と述べた。 一審旭川地裁判決によると、出口被告は昨年2月、北海道興部町で同居していた会社員渡辺明宏(わたなべ・あきひろ)さん=当時(38)=の首を包丁で刺し、出血性ショックなどで死亡させた。 いつものことですが、記事には治療が適切であったかどうか分かるような情報はほとんどありません。でも、記事から推察するに、解剖所見から法医学者は緊張性血気胸で死亡したと判断したようです。それだけ報告してお終いにすれば何も問題はなかったのですが、治療の是非にまで口を出すのはやり過ぎです。 口蹄疫に関しても、自分の守備範囲をわきまえない女性医系技官のトンデモ発言が話題になっていますが、この記事の越権行為の法医学教授も女性ですね。私自身は女性だからと言うつもりはありませんが、両方を見て、「だから女は」と言う人はいるんだろうなあ。 男でも女でも自分の守備範囲をわきまえることは大切ですが、女性への偏見が現実にある以上、特に女性は慎重に行動して欲しいと思います。肩肘張らないと生きていけない女性専門家は、つい、守備範囲を逸脱しやすいのかも知れませんが。 臨床医のひとりとして言わせて貰えば、現に首(頸)から大量出血していれば、まずは止血と輸血に専念するでしょう。血気胸があったとしても、そちらが後回しになるのは仕方ありません。血気胸が死因であったのが事実としても、それを適切に治療できたのかどうかはその時の状況に依ります。