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カテゴリ:パリの思い出
職場の公用語が複数ある組織では、雇用の最低条件がそのうちの一つが仕事できるレベルであることですが、皆が一つの言語しかできないと話す言語が違う人々の間での意思疎通の問題が出てくるので、たいていどこでも各人が普段使うワーキングランゲージ以外の公用語の習得を奨励しています。
私がいたところも、夏季休暇がてら地方の語学学校の集中コースにみっちり通うと、通学期間の半分は出勤とみなすという制度があったので、夏休みにエクサンプロバンスで二週間の仏語の集中コースを受けてみました。短期留学みたいなものです。 職場から紹介してもらった語学学校経由で小さなステュディオ(ワンルーム)を確保して、週5日毎日九時から三時半までびっちり授業で、夕方や週末にはペタング大会とかフランス人家庭での料理教室とか、マルセイユへの遠足のような行事を学校が主催してくれます。 私のように休暇がてら来てる社会人とか、サマースクール代わりの高校生とか、フランス留学準備の大学生とか、みな「おひとりさま」の外国人ですが、おかげで皆仲良くなって一緒に夕飯を食べたり夜遊びに出かけたりと、楽しい休暇になりました。 右上の写真は、週末遠足の際のものです。クラスも違い、特に彼女と仲良しだったわけではありませんが、たまたま今にも崩れそうなこの岩の上で若者たちが度胸試しに交代でポーズを決めているのを写真に撮り、後で送ってあげたらすごく喜んでくれました。パレスチナ人だと言うので驚いた覚えがありますが、イスラエルとの紛争のニュースを聞くにつけ、今頃どこで何をしているのかなとふと思い出します。 語学学校を選ぶとき、本当に語学習得が主目的であるならば、日本人が多くない学校がいいと言われます。幸い私のクラスは日本人は二人でした。アルザス地方に留学予定だった彼は二人で飲みに行くときでさえ全て仏語で通し切る意思の強い人で、私もお陰で安易な道に流れずに済みました。目的意識の高いこういう人は尊敬します。 一方、日本人比率がぐっと増える初級クラスの方は、仏語の必要に迫られている人は少ないためか休暇気分が蔓延し、せっかく国際色豊かなメンバーで食事に行っても会話が続けられなくて黙り込んだり、日本人同士で日本語のお喋りをはじめてしまいます。 語学の上達は彼ら自身のモチベーションの問題なので放って置きますが、同胞として気持ちのいい国外でのテーブルマナーは一生の財産だと思うので、多国籍で食事をセッティングしては誘い、日本語で話をはじめると仏語で日本人以外のメンバーに話を振りつつさりげなく強引に彼らの話に介入してました。まるで煩いオヤジですね(笑)。 でも国外、特に欧米に出ていわゆるヨコメシにも慣れたときに気付いたことの一つは、そもそも一緒にテーブルを囲む際にどのナイフから使うかという形式的なテーブルマナーよりずっと大切な暗黙の約束ごとがある、ということでした。 言葉が下手でもナイフを使い残しても、それが理由で人から嫌われることはありませんが、周囲が気を遣っていろいろ話を振ってくれているのに、Yes (Oui), No (Non)とだけで答えて黙る、というのは大人としてとんでもなく無作法なことなのだ、と気付くまでに私は結構時間がかかりました。 たとえあまり面白くない話でも失敗談の一つや二つ、ブロークンな仏語(あるいは英語)ででも事前準備しておくだけで、その人への印象はぐっと良くなり、もともと我侭や自己主張の少ない日本人は一般的に好かれるので次の誘いの声もかかりやすくなります。自分のネタが尽きれば相手の話にうまく話をさせればいいので、趣味は何か、どこから来たかなど、いろいろな方向から相手が話せる話題を探して振りますが、これも場数を踏めばすぐ上達します。 フランスでは子供の給食の時間にも、先生が順番に各グループに入り、その近くに座った生徒は食事の間きちんと先生を会話でもてなす訓練をしますし、米英でもおそらく似たようなものでしょう。アジア人でも社交上手なシンガポーリアンや香港チャイニーズもそういうことはそつなくこなしている印象があります。 別に何でもかんでも欧米の常識がグローバルスタンダードだ、と思っているわけではなく、日本の心地よい「黙っていても通じる」というのはある意味ずっと高い水準の文化だと私は思っています。ただし、その成立には構成員が比較的文化的に高い水準でほぼ均質化されているという難しい前提条件が必要で、同国人ですらない人々の間で仲良くやっていくときにそこに基準を置くことはできません。育ち方も生活環境も違う人々がある状況下で何をどう考えるかを察することはほぼ不可能なので、欧米式の方が実用的です。それに、どんなところなのかすら想像もつかないようなところから来た人々がいるところで、黙っていて彼らの話を聞くチャンスを逃すのはとてももったいないと思いませんか? 下は、エクサンプロパンスの町のミラボー通り(Cours Mirabeau)。パリに帰る前の日、学校の仲間でちょっといいガーデンレストランで食事をしました。南仏料理は美味しいし、非常に雰囲気もいいところでしたのでご紹介。 Restaurant L'Abbaye des Cordeliers 21, rue Lieutaud, 13100 Aix-en-Provence Tel 04 42 38 34 63 最後に、マルセイユ(Marseille)からカシス(Cassis)方面への遠足で撮った写真をいくつか貼っておきます。 南仏に惹かれて移住したイギリス人ピーター・メイルは、 「南仏プロヴァンスの12か月」などを書いて南仏を一躍有名観光地にしました。その後、あまりに観光地化しすぎたプロパンスに嫌気がさしたメイルは南仏を出て行くのですが、それでも今もごくごく小さな港町にこんなすごい風景が広がり、食事も日本人の舌に合うという、休暇にはもってこいの場所です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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