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カテゴリ:読書
八月にホテルオークラで開催された「秘蔵の名品 アートコレクション展」で鏑木清方の雨月物語の連作が展示されていたのがきっかけで、講談社文庫の雨月物語を読んでみました。
1776年(安永5年)に刊行され、日本・中国の古典をもとにした、怪談のような短編九篇から成っています。誰でも知っているような有名な話もあるし、比較的知名度が低い話もあり、私は鏑木清方が絵の題材に採った「蛇性の婬」のストーリーは知りませんでした。 講談社文庫は上下に分かれており、先の六話が上、残りの三話が下に収められています。上は比較的冗長ですが、下は蛇性の婬に加えて貧福論も非常に興味深い内容です。 * 白峰(しらみね) * 菊花の約(きくかのちぎり) * 浅茅が宿(あさじがやど) * 夢応の鯉魚(むおうのりぎょ) * 仏法僧(ぶっぽうそう) * 吉備津の釜(きびつのかま) * 蛇性の婬(じゃせいのいん) * 青頭巾(あおずきん) * 貧福論(ひんぷくろん) 蛇性の婬のあらすじは、漁業を営む裕福な庄屋の道楽好きな次男坊(豊雄)が、美しい女に化けた蛇(真女子)に見初められ、周囲の状況に流されてくっついたり逃げたりした挙句、逃れるために嫁を取ったら真女子が嫁に取り付いてしまい、最後は祈祷僧によって真女子は退治され、とばっちりを食って嫁は死に、なぜか甲斐性なしの主人公だけ永らえてハッピーエンド、という話です。 「ちぎり」は、偶然雨宿りで出会った、地方役人の未亡人だという真女子(まなこ)が忘れられない豊雄が、真女子の屋敷を尋ね回り、出くわした真女子の侍女に案内されて歓待を受け、いい感じになる、という場面。 「もののけ」は、先の「ちぎり」の場面の後、家に帰る豊雄に真女子がプレゼントした豪華な太刀が、実は熊野権現から盗まれた神宝の一つであることが判明して大騒ぎとなり、捕まった豊雄が役人を真女子の屋敷に案内したら、すばらしい屋敷はぼろぼろで、姿を現した真女子は神宝を残して消え、人ではなくもののけであることが明らかになります。 この「蛇性の婬」に限らず、すべての話がいわば怪異譚ですが、その下敷きにあるのは、世の不条理さです。 解説も、人と人(あるいは人と人でないものだったりしますが)とのそれぞれの理屈や思いのかみ合わなさと、片方が自分だけの理論でもう片方の処遇を物理的、あるいは自分の心の中で一方的に決めて、もう片方はそれに対しなすすべもない、というのが全編に共通するストーリーであることに光を当てており、いろいろ考えさせられるところがありました。 [参考] 講談社学術文庫 上田秋成著 /青木正次 訳注 雨月物語(上) 雨月物語(下) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.10.08 18:44:19
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