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カテゴリ:恋愛小説
結局、あの日は帰ってから
何も口にする気持ちにはなれず 早く一人になりたくて、早々にベッドに入った。 暗闇の天井を見つめても、答えは何も出てこない。 触れた唇の感触があまりにも熱く残って、痛いくらいだった。 そして意味もなく、また少し泣いた。 でももう悲しくはなかった。 「はぁ」 机の隅で硬くなったパンを眺めながら 今日すでに何度目にもなるため息をついた。 あれから三日。 彼とはいまだに何も話してはいない。 彼の様子にも、別段変わったところは見られない。 いつものようにバスケ部の男の子たちの輪の中で屈託なく笑っている。 …じゃああれはなんだったんだろう… あの日の夕焼けがキレイすぎて あの日の彼のしシルエットがキレイすぎて すべては夢だったのではないのかとさえ思ってくる。 …そんなはずは、ない… あの鼓動の音が あの彼の指が あの感触が 忘れられない自分がいるのだから。 本当は、今日こそ勇気を出して話しかけてみようと思っていた。 あの時の話しじゃなくていい。 なんでもいいから、話しをしてみたいと思った。 けれど… 彼が本当に何もなかったようにしているから、そんな勇気もでない。 …勢い、だったのかな。 …遊び、だったのかな。 思考はどんどんどんどん悪い方向へと進む。 暗い気持ちになって、ため息が増える。 明日こそは話しかけてみよう。 悪い考えを振り払うように、小さく頭を振る。 これも返さなくちゃいけないし…。 手元にはキレイに洗濯した空色のタオル。 すぐに返そうと思ったのだけれど 次の日には顔を合わすことさえ恥ずかしくて 思わず彼のことを避けてしまっていた。 話すタイミングをわざとずらしてしまった。 ふと思いついて、春の球技大会の時の集合写真を引っ張り出す。 まだ今のクラスに成り立てで、なんとなくまとまりがなくて… クラスメイトの名前もうろ覚えだった頃。 写真に写っているはずの、彼の姿を探し求める。 背の高い彼は、一番後ろの列、右のほうにいた。 陽の光にまぶしそうに目を細めている。 そういえば彼は…バレーに出てたんだよね…。 自分の入っている部活と同じ種目には出られない。 彼はバスケ部だから、バスケは出られなかったんだった。 球技大会の参加種目を決めるHR。 今さらになってそんなことを思い出す。 バスケ部の男の子はまとめてバレーに出てたっけ。 彼と話したことはないと思っていたけど そういえばあの時少し、話したかもしれない。 ほんの少しだったから忘れていたけれど。 そういえばあの時も彼は空色のタオルを持っていた。 手元のタオルを見つめながら 彼と初めて話した時のことを思い出した…。 (続く) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005/10/26 10:02:03 PM
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