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カテゴリ:恋愛小説
私には記憶を失った記憶など、ない…はず。
覚えてないことは確かにあるけど 小学校の頃の記憶なんて誰でも曖昧なものだと思う…。 元々私は人の顔と名前を覚えるのが苦手だし。 卒業した後は新しい出会いもあり 昔のクラスメートの名前だって、全員は思い出せない。 すべてはうっすらとした幕の、向こう側にある。 友人が説明してくれた、あの時…。 私には何のことだか思い出せなかった。 「…っていうことがあったでしょ?」 聞かれた言葉にただ曖昧にうなずいて見せただけだった。 思い出したくないイヤなことだったのかもしれない。 途中までの記憶は、ある。 ただ最後がどうなったのか、思い出せない…。 …どうなったんだっけなぁ… 覚えているのはオレンジ色のきれいな空だけ。 きっと、小学校の校庭なのだろう。 半分ほど土に埋まったタイヤの遊具に座って、 それを眺めて泣いた記憶はある。 でも、それだけ。 どうしてそうなったのかは、思い出せない。 それが彼女のいう、あの時、なのかな…。 それともぜんぜん違う時のことを思い出しているだけなのかな。 時が経てば経つほどに、記憶は切れ切れになり、 断片になって蓄積される。 それを一つに紡ぐ糸が、彼なのだろうか…。 「もしかして…彼、記憶が戻って来てるんじゃ…」 彼女はもう一度言った。 結局バイトは諦めて、彼女は私に付き合ってくれた。 そして、彼女は語りだした。 あの時何があったのかも。 彼にとっての私がどんな存在なのか、も。 「…それじゃあ、記憶を失っていたのは、私じゃなくて、彼だったの…?」 彼女の話しを聞くうちに、ばらばらになった記憶の断片が繋がった気がした。 教室はオレンジから濃紺へと移り変わっていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005/10/17 11:19:12 PM
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