【忘れられない(8)】suzu
「ううん、アナタも少しは記憶を無くしてるハズよ」あれは、小学校の頃…彼女の話によると、私と彼は小学校の頃一緒のクラスだったらしい。全然、覚えて無いんだけどね…。そして彼は私に、恋心を抱いていた。ラブレターも貰っていたみたい…。彼女にもその事で、色々と相談していたみたいだ。でも、結局一度もちゃんとお話する事は無く。ラブレターを受け取った数日後、一つの事故が起こった。それは、クラス対抗でのバスケットボールの試合があった日。彼はバスケ部に入っていて、その時の試合にも参加する予定だった。ラブレターをくれた彼が出場している。そう思って、私は彼女と一緒にバスケットの試合を見学しに行った。バスケの試合を見に行った……この部分は、何となく覚えてる。でも、この後何があったのか…そこが、よく思い出せないでいた。「この試合の時にね、彼がドリブル中にバランスを崩して……あなたに向かって倒れこんできたのよ」「…そんなことが、あったんだ」だから、その後の部分が記憶から飛んでるんだ…。「打ち所が悪かったのか、あなたも彼も気を失っちゃってね。 試合はそこで中止。二人とも病院に担ぎ込まれたんだから」その後、二人とも怪我は大したことなく、すぐに退院出来た。でも、彼の方は……一部の記憶がすっぽり抜けちゃってたみたいで。その一部の記憶とは……そう、私に関する全ての事。好きになってた事も、ラブレター出してた事も……私の、名前までも。「あの時…事故があった後、ちゃんとあなたに説明したんだけど… 『冗談だったんだよ』とか『からかわれてたんだ』とか、そんな風に言ってたんだよね…」「う、うん……そうだった、かも…」それもそうだ。私の事だけを忘れるだなんて、そんな事有り得ないと思ってた。…その時は。でも、今となって考えると…あの時の彼の行動も、納得がいく。それにしても、何でこんな事件を全く覚えてなかったんだろう…。(続く)