幸福 / 岡村靖幸
01.できるだけ純情でいたい02.新時代思想03.ラブメッセージ04.揺れるお年頃05.愛はおしゃれじゃない06.ヘアー07.ビバナミダ08.彼氏になって優しくなって09.ぶーしゃかLOOP■今、岡村靖幸のHPを開くとM9が聞ける。これがまたえらくかっこいい。机に座ってマックブックの前でひとりぶーしゃかやっている彼の姿は23才に見えなくもないが、実はその何倍も年をとっている。自動筆記で出てくる即興的なラップの切れ味はさすがだが、時々むせるのである。それでも岡村ちゃんの加齢はひたすら華麗だ。■私もまた「家庭教師」と「禁じられた生きがい」の2枚にすっかりやられたクチだが、この新アルバム9曲(既出曲を多く含むが)の流れはあの傑作たちを聞いた時に感じた気分とほぼ変わらないくらいの幸福のかたまりだ。■自分の幼い息子または娘と風呂に入る幸福。湯船にみかんを何個も入れてとてもいい匂いだ。息子あるいは娘はその皮をむきパパあげると私に向かって微笑みながら手を伸ばしてくれる。それを受け取る彼の顔はこちら側からは見えないがおそらくエロくもなくキモくもない。■身体が反応する音楽である。リズムが命の音楽である。それに合わせてワオとかウオとか合いの手を入れて頭を振っていてもそれなりに気持ちの良い音楽である。でもそこに今浮かんできたばかりのような歌詞を乗せて極上ポップなフレーズを作り上げてしまうのが岡村靖幸である。■中二病にかかったまま年をとった青年50才はまだまだ愛の歌に夢中だ。キスしたいとか抱きしめたいとかモテたいとかまだまだ恥ずかしげもなく繰り返すことができるということ。そしてそれをキモいというよりむしろエロいという褒め言葉で認められてしまうような才能があること。■M3からM8までの怒涛のポップチューンの連続技に多幸感を味わえるのはもちろんだが、純粋新作のM1,M2の不思議な味わいもまたくせになる。家人が全員いなくなったのを確認してから、自分の部屋でひとり大音量でこのアルバムを聞き、一緒に歌い踊る。下半身のキレがあの頃よりもなくなったのはいかんともしがたい。そして私もまた高音で何度も何度もむせてしまう。青年60才、そんな自分は絶対エロいよりキモい。