s(o)un(d)beams / salyu
01. ただのともだち 02. muse’ic 03. Sailing Days 04. 心 05. 歌いましょう 06. 奴隷 07. レインブーツで踊りましょう 08. s(o)un(d)beams 09. Mirror Neurotic 10. Hostile To Me 11. 続きを■このアルバムにおける小山田圭吾とsalyuの関係は優秀なコーチと有能なアスリートの関係に似ている。CORNELIUS名義の「point」「sensulous」という21世紀の名盤2枚の続編という感想を持ったが、そこには無かった最終兵器がこの女性歌手の圧倒的な「声」だった。■1曲目の「ただのともだち」がすごい。最初に歌詞カードを遠目に眺めた時、まるで音符のような記号の羅列に見えたものが、実のところは言葉の連なりであったことに気づいてちょっと驚いた。だ・だ・だ・だ・だれ・だれ・だれという打楽器のようなその声にピアノが絡まり、チェロが絡まり、音階を持ったまたひとつの声が被さってこの曲が音楽のような響きを奏ではじめるとその美しさみたいなものに圧倒されてしまう。■細部まで計算が行き届いた曲作りはCORNELIUSにとってはおてのものだろうが、歌詞の構造もまた複雑に入り組んでいて聴けば聴くほど(読めば読むほど)物語が膨らむ。特にM1,M6,M11を書いた坂本慎太郎の詩が面白い。仮歌段階ではsalyuによるハナモゲラ語だった意味のない音が彼やいとうせいこうや七尾旅人らによって意味のある言葉となって歌われている。■声が楽器の一部であるとしたらそれはどんな音符も音階も再生可能であるべきだ。しかしあくまで人工的なそれには生まれ持ったその人なりの限界はある。それでもサディスティックな作曲者は極限まで無理難題を迫り、それを与えられたマゾヒスティックな歌い手の方は自分の限界を突き破ろうとその求めに応じる。そしてそこには楽器には出せなかったニュアンスや暖かさまでもが滲みでてしまう。冷酷なプロデューサーは実はそんなところまで計算に入れて彼女にそんな要求を突きつけていたのかもしれない。