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カテゴリ:本
「蛇行する川のほとり」
恩田陸 中央公論新社 ドラマ化もされた「ネバーランド」は少年達のひと夏の出来事を描いたものだったけど、 こちらは少女達(少年も登場するけど)のひと夏が描かれてます。 香澄と芳野というミステリアスな美少女2人と、鞠子と真魚子(まおこ)という対照的なキャラクターでいて親友同士の2人。 そんな4人の美少女たち(プラス少年2人)が共に夏を過ごすことになったために、過去に封印された事実が明るみでようとします。 物語の中心は香澄。 彼女が円の中心に立ち、それぞれに半径の違う同心円上に立つ芳野達。 彼女たちの過去に何が起こったのか、それぞれが部分的にしか真実を知らないゆえに、疑心暗鬼に陥り、時には他者に対して心理的有利に立ち、時には引け目を感じる。 そんな心理的な人間関係のバランスが絶妙に描かれています。 語り手が、鞠子、芳野、真魚子と章ごとに変わり、視点が変わることで、真実を別な角度から見ることでき、終章で香澄のモノローグで誰も知り得なかった真実が誰も知らない形で読者に突きつけられます。 ミステリー部分は、そんなにサプライズに満ちてはいませんが、恩田陸の小説の楽しみは、結果より過程にあるところです。 ジャンルにとらわれない彼女の小説には、一冊ごとに違う「ネタ」で驚いて、そして否応なく飛びついてしまう。 いつも詰めは甘いなと思うのですけど、それでも未読のものがあったら読まずにいられないくらい、楽しみに満ちてます。 おまけに今回は、彼女お得意の?学園物! 初っ端から、ノスタルジックな気分に陥ります。 といっても、リアルなノスタルジーじゃなくて、バーチャルなノスタルジー。 私の高校時代は、おにゃんこクラブが全盛のなんだか軽く明るく生きましょうよ、の空気が漂う時代。 だから、人にはできるだけ暗い部分を見せずに過ごすことが肝要だった時代。 もちろん無理することなく友人たちとは楽しく過ごしていたけど、読書少女でもあった私としては、ひそかに別な世界にもちょっと憧れを抱いていたのです。 ミステリアスで濃密で息苦しいくらい接近した寮生活。 憧れの美しい先輩と過ごす別荘の夏休み。 美しい自然に囲まれた土地で育まれる牧歌的な恋。 …… どこを探したらそんなものに出会えるんだよ、というような本の上だけの世界。 ミステリアスな美少女を気取りたくたっても、影をつくりだすドラマチックな過去なんて全くありえない、普通の人生を歩んできただけに、憧れは憧れのまま、少女期の終わりと共に消えてしまいました。 (大学生にもなれば、興味の対象がさらに現実的になりますから) それが、恩田陸の小説を読むとひょいっと甦るのです。 ああ……私の懐かしき(頭の中だけの)少女時代。 まさにノスタルジーです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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