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カテゴリ:本
宝島社による第1回「このミステリーがすごい!」大賞(2002年)受賞作品です。
映画化もされて話題になりました。 元ピアニストの如月と、脳に障害のあるピアニストの少女・千織は、彼女のリサイタルによる老人ホームなどの施設慰問で旅する生活を送っています。 2人はかつてウィーンで起きた事故で出会い、彼はそれにより指を負傷しピアニストの道を断念し、千織は孤児となったといういきさつがあり、回想によって、今までのことが語られます。 主人公が、サヴァン症候群である少女の音楽的才能を開花させる。 そんな小説の序盤のくだりは、篠田節子の「ハルモニア」を思い出させます。 サヴァン症候群とは、脳に障害があるものの、1度見た風景を精密に描けたり、または1度聴いた音楽を正確に再現できたり、何千年先のカレンダーの曜日を計算できたり……と、ある分野においては天才的な働きを見せる症例です。 強度の自閉症患者などにまれに見られるそうです。 そういえば、映画「レインマン」のダスティン・ホフマンの演じた自閉症患者もそういう能力の持ち主でした。 彼の場合は、何桁もの数字を瞬時に記憶するのが得意で、トム・クルーズ演じる弟とカジノで大儲けをするシーンがありました。 前にテレビでも、脳についての特集番組で、サヴァン症候群の患者が紹介されたのを見ましたが、実際の彼らの能力に驚きました。 さて、主人公達が、山奥にある施設に赴くところから、ストーリーの本筋に入ります。 脳に障害がある人ばかりが入所している施設で、そこで患者とその家族、そしてスタッフが外界から離れて一種のコロニーを形成しています。 そのスタッフの1人に如月の高校の後輩・真理子がいて、彼らを招待するのです。 そして、千織のコンサートも無事に終わったあと、真理子と千織が大きな事故に巻き込まれます。 その事故により、小説のタイトルでもある「四日間の奇蹟」が起きます。 そこからは、またまた別の有名なミステリーを彷彿とさせるのですけど、そのタイトルは伏せておきます。 読んでのお楽しみ(?)です。 しかし、そういったほかの小説とネタが重なっても、この小説がそれらと全く別物であるのは確か。 はじめサヴァン症候群、そして「奇蹟」、そういったサプライズなネタを扱いつつも、テーマはそこにないからです。 奇蹟のその先にある人生賛歌、が後半のストーリーの中心になっていくのです。 タイトルが「四日間の奇蹟」。 だから奇蹟にタイムリミットがあるのも読んでいる方はわかります。 そして、その予想を裏切らない結末を迎えます。 ついでに主人公達も前もって、奇蹟の期限がわかっています。 それゆえに、人生の虚しさに主人公達は打ちのめされます。 しかし、そういった奇蹟のおかげで、人生は哀しいけど、やはり喜びに満ちているということを逆に知ることにもなるのです。 奇蹟の終了時には、さらに奇跡が重なります。 感動的なんだけど、たぶん泣いてしまうようなシーンなんだけど、ちょっと私にはtoo muchでした。 それより、真理子の身の上話の方に泣きました。 奇蹟が終わったのちに、「奇蹟がもたらした奇蹟」が、周りの人々に影響を与えます。 ちょっとそれもやり過ぎじゃないの、と思えるくらいだけど、そのおかげで哀しい結末を希望あるものに変えます。 読後感もぐっとよいものになります。 読み終えて、これはミステリーなのかという疑問は残るけど、つまりは人間の脳のはたらきこそ最大のミステリーなんだということでしょうか。 それについても医学的見解がいろいろ説明されます。 小説なので、わかりやすく解説されているので、なかなか興味深かったです。 「四日間の奇蹟」/浅倉卓弥/宝島社 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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