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カテゴリ:本
時は明治。 文明開化に世の中が変わり始める頃。 亡き親友の父親に頼まれて、住み手のいない家を預かることになった売れない文士・「私」(綿貫征四郎)。 家守となった彼が、四季折々の草木に囲まれた日々を送るなかで遭遇する怪異譚であります。 怪異といっても、おどろおどろしい世界ではありません。 例えば、 サルスベリの木に惚れられたり、 庭の池に河童が現れたり、 白木蓮がタツノオトシゴを孕んだり、 飼い犬が不思議な力を持ってたり、 タヌキに化かされたり、 そして亡き友まで床の間の掛け軸から現れたり、 ……と、なんだか微笑ましくも淡々と、そして自然に「この世のものでないもの」たちとの交感が日常に溶け込むがごとくに行われます。 最初は、怪異に出会うたびにちょっとは驚いてた「私」もだんだんあるべきものもあるべきではないものも、ごくごく自然に受け入れるようになる。 目の前にいるのだから存在するんだろう、みたいな素直な受け入れ方です。 もともと現実主義者とは逆の生き方をしている彼だから、出会える生活。 周りの人々もそれに対して異を唱えることなく、当たり前のように接している。 明治という時代を背景にしているからか、そして舞台が東京でないからか(たぶん琵琶湖周辺)、まだまだ文明開化に毒されていない穏やかで静謐な日常に、読んでいるこちらもとても和みます。 梨木香歩の小説を読むのはこれで4冊目だけど、その主人公達は、目まぐるしい現代社会から1歩身をひいてる人たちが多いです。 四季折々の自然のすぐそばで、その自然の移り変わりに敏感に、そして精神的に豊かに生活を丁寧に営んでいるという感じ。 今の言葉でいうと、まさに「スローライフ」。 彼らは利便性はあえて捨てているので、実際に真似ようとしたら、現代社会の恩恵を存分に受けている私にはキツイだろうなあとは思います。 だから、それゆえに憧れるのですけど。 「家守綺譚」梨木香歩/新潮社 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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