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カテゴリ:本
今や、作品より作家本人のキャラクターの方が有名になってしまった感のある岩井志麻子さん。 バラエティー番組に登場しては、他のタレントさんを絶句させるような私生活を暴露なさってます。 そんなお話を聞いた後に、彼女の代表作「チャイ・コイ」なんかを読むと、すごいリアル感に圧倒されます。 読み進めていて、頭の中で主人公の顔は、そのまま岩井先生になってしまいます。 たぶん、ベトナム人青年との激しい恋を描いたこの小説は、かなりの範囲で事実といえる私小説なんだろうなあ。 さて、この「永遠の朝の暗闇」。 ジャンルでいえば、家庭小説でしょうか。 3部構成になっています。 第一部は、母子家庭に育った23歳の香奈子が、主人公。 厳しい母親に育てられた香奈子は、羽目をはずすことのできない優等生タイプ。 恋愛経験もほとんどありません。 なのに、出会って恋に落ちてしまったのは、よりによって妻子ある男性・今井(妻とは別居中)。 恋する気持ちを止められず、不倫の関係になります。 その後今井の離婚、本妻との確執、そして妊娠・結婚へと進展する中での彼女の葛藤が描かれます。 第二部は、今井の別れた妻30才のシイ子が主人公です。 地方TV局のレポーターから、全国区の人気タレントにのし上がったシイ子。 自分の野心のために家庭を捨てた、と世間からは非難の的になりながらも、強い女を演じ続けます。 親友からも裏切られ、新しい恋人にも心を開ききれないでもいる。 そして別れた子供たちも会わせてもらえない。 売れっ子になればなるにつれて、孤独になり、疲れていきます。 第三部は、何年か経った後に、中学生になったシイ子の娘・美織が主人公。 実母(シイ子)と義母(香奈子)、そして彼女達の姑にあたる祖母に挟まれて、窮屈した思いで生活してます。 そういう境遇に陥ると、たいがい非行に走るか、自分を抑えて優等生になるか、に分かれますが、美織は後者のタイプ。 母親たちと違って、自分で自分の境遇を選べない立場である子供は、逃げ道がありません。 普通じゃない家庭環境の中で、普通の子を演じようとする彼女の苦しみが描かれます。 恐らく、シイ子のモデルは作者自身なんだと思います。 今井シイ子=岩井志麻子、似てますね。 彼女も作家として成功するために、夫と子供と別れて上京したという過去があります。 (と以前「金スマ」でやってました) テレビで自分の私生活を露悪的に話す作者。 エキセントリックなキャラクターが受けてスターになっていくシイ子の姿と、実に重なります。 シイ子がベトナムを旅行して、ベトナム人青年に出会って癒されていくあたりは、「チャイ・コイ」の内容と重複してます。 とはいえ、こっちはかなりソフトですが。 不倫する方も不倫される方も、家庭を奪うほうも、捨てる方も、いろんな葛藤の末の選択であるといえます。 だれだって、悪意を持ってやるわけではない。 でも、結局は、すべてのしわ寄せは子供にいってしまうかもしれません。 どんなに大人が子供のことを気遣ったとしても、です。 香奈子と美織の存在は、実在するのかは知らないけど、それぞれ3人が「普通の家庭の幸福」を夢見て、絶望していく様は哀しいです。 でも、選択した(または、された)先に、永遠に続く生活が待っています。 読後感は、そう暗いものではありません。 「永遠の朝の暗闇」岩井志麻子 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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