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2005年07月17日
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カテゴリ:
永遠の朝の暗闇

今や、作品より作家本人のキャラクターの方が有名になってしまった感のある岩井志麻子さん。
バラエティー番組に登場しては、他のタレントさんを絶句させるような私生活を暴露なさってます。
そんなお話を聞いた後に、彼女の代表作「チャイ・コイ」なんかを読むと、すごいリアル感に圧倒されます。
読み進めていて、頭の中で主人公の顔は、そのまま岩井先生になってしまいます。
たぶん、ベトナム人青年との激しい恋を描いたこの小説は、かなりの範囲で事実といえる私小説なんだろうなあ。

さて、この「永遠の朝の暗闇」。

ジャンルでいえば、家庭小説でしょうか。
3部構成になっています。

第一部は、母子家庭に育った23歳の香奈子が、主人公。
厳しい母親に育てられた香奈子は、羽目をはずすことのできない優等生タイプ。
恋愛経験もほとんどありません。
なのに、出会って恋に落ちてしまったのは、よりによって妻子ある男性・今井(妻とは別居中)。
恋する気持ちを止められず、不倫の関係になります。
その後今井の離婚、本妻との確執、そして妊娠・結婚へと進展する中での彼女の葛藤が描かれます。

第二部は、今井の別れた妻30才のシイ子が主人公です。
地方TV局のレポーターから、全国区の人気タレントにのし上がったシイ子。
自分の野心のために家庭を捨てた、と世間からは非難の的になりながらも、強い女を演じ続けます。
親友からも裏切られ、新しい恋人にも心を開ききれないでもいる。
そして別れた子供たちも会わせてもらえない。
売れっ子になればなるにつれて、孤独になり、疲れていきます。

第三部は、何年か経った後に、中学生になったシイ子の娘・美織が主人公。
実母(シイ子)と義母(香奈子)、そして彼女達の姑にあたる祖母に挟まれて、窮屈した思いで生活してます。
そういう境遇に陥ると、たいがい非行に走るか、自分を抑えて優等生になるか、に分かれますが、美織は後者のタイプ。
母親たちと違って、自分で自分の境遇を選べない立場である子供は、逃げ道がありません。
普通じゃない家庭環境の中で、普通の子を演じようとする彼女の苦しみが描かれます。

恐らく、シイ子のモデルは作者自身なんだと思います。
今井シイ子=岩井志麻子、似てますね。
彼女も作家として成功するために、夫と子供と別れて上京したという過去があります。
(と以前「金スマ」でやってました)
テレビで自分の私生活を露悪的に話す作者。
エキセントリックなキャラクターが受けてスターになっていくシイ子の姿と、実に重なります。
シイ子がベトナムを旅行して、ベトナム人青年に出会って癒されていくあたりは、「チャイ・コイ」の内容と重複してます。
とはいえ、こっちはかなりソフトですが。

不倫する方も不倫される方も、家庭を奪うほうも、捨てる方も、いろんな葛藤の末の選択であるといえます。
だれだって、悪意を持ってやるわけではない。
でも、結局は、すべてのしわ寄せは子供にいってしまうかもしれません。
どんなに大人が子供のことを気遣ったとしても、です。

香奈子と美織の存在は、実在するのかは知らないけど、それぞれ3人が「普通の家庭の幸福」を夢見て、絶望していく様は哀しいです。
でも、選択した(または、された)先に、永遠に続く生活が待っています。
読後感は、そう暗いものではありません。

「永遠の朝の暗闇」岩井志麻子





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Last updated  2005年07月17日 19時05分44秒
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