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カテゴリ:本
「ロング・グッドバイ」ときたら、レイモンド・チャンドラーの「長いお別れ」。 どうやらこの本は、その有名な古典的ハードボイルドのオマージュとなっているようです。 ちなみにレイモンド・チャンドラーは「LONG GOODBYE」。 本書は「「THE WRONG GOODBYE」。 私が「長いお別れ」を読んだのは、20才の頃でストーリーはきれいさっぱり忘れてました。 で、本書を読むにあたり、再読してみたのですが、ほんとに内容を忘れていて、最後の最後まで記憶が甦ることはありませんでした。 名セリフ「ギムレットにはまだ早すぎる」、これもこの場面で出てくるのね~なんて細かいところも初めてのごとく楽しめました。 酒場で酔いつぶれた男と知り合った主人公。 妙に人好きするその男と何度か酒を一緒に飲んでいるうちに、友情めいた感情が生まれる。 ある日、主人公は、男に頼まれて車で国境まで彼を送る。 しかし彼には、殺人の容疑がかかっていて、そのため主人公は共犯の疑いで警察にマークされる。 しかし男が逃亡先で死んだとことがわかり、殺人事件そのものが立ち消えとなる。 事件の成り行きに納得がいかない主人公は、独自に事件を洗い出す。 また主人公は、とある失踪者の捜索を依頼されて、そちらも引き受けて捜査を始める。 ………。 そして、彼は2つの事件の真相を知る。 上記が、「長いお別れ」のストーリーの骨格。 「ロンググッドバイ」もこの骨格に沿ってストーリーが展開します。 しかし、描かれる事件自体は、全く違う。 同じじゃつまらないですものね。 事件のスケールは、本書の方が断然大きいです。 でも事件の真相まで骨格はやはり同じです。 さすがに全く別物の話になると、オマージュにならない。 そのへんのバランスはとれていると思います。 具体的な対比をいくつかあげてみます。 オリジナルは、1950年代のハリウッド近辺が舞台で主人公は私立探偵。 本書は、20世紀の終わり頃の横須賀が舞台で、主人公は刑事。 日本では警察官しか拳銃を持つことができないですから、この設定は重要。 そしてどちらも、ハードボイルドの主人公らしく、やせ我慢を重ね、多くを語らず、反骨精神の塊で、人付き合いが下手です。 そして本書の主人公の方がさらに禁欲的かも。 オリジナルで主人公が友人を送る国境とはメキシコとの国境。 日本は島国だから国境はどうするのかというと、実は日本には外国があるのです。 日本各地に点在する米軍基地、1歩踏み入れれば、アメリカ合衆国です。 つまり基地の入り口が国境となるわけです。 オリジナルの主人公の友人は、酒浸りの第二次世界大戦に従軍した退役軍人。 本書の主人公の友人は、酒浸りのベトナム帰りの日系アメリカ人退役軍人。 どちらも、彼の軍役時代のエピソードが事件の鍵を握ります。 そして、主人公の友人に対する複雑な感情も似たものがあります。 オリジナルで有名なカクテル「ギムレット」。 本書では「ダイキリ」が主人公と友人をつなぐ小道具として登場します。 酒と割るジュースの銘柄にこだわるあたりもどちらにも見られます。 そして、第2の事件の依頼者である魅惑的な女性。 どちらもアイリーンという名前。 オリジナルでは、ブロンドの「夢のような」美女。 本書ではアジア系アメリカ人の有名音楽家。 どちらも主人公とあやしくなりそうな展開となります。 そして、オリジナルでは、事件を通して、ハリウッド(当時はまだ映画スターの街というよりは、もっと上流階級の街という感じです)に住むセレブたちのあり方を皮肉っています。 それに対して、本書で描かれるのは、米軍基地という存在。 戦後の日本と基地との関係が端的に描かれ、そんな違和感の塊である存在に、普段目をそらして生きている自分に気付いたりします。 著者の作品である「あ・じゃぱん」も架空の戦後日本を描くことによって、戦後日本を痛烈に皮肉っていました。 そのほかの作品は読んだことはないけど、それが彼の小説のスタンスなのかな。 といっても、本書はハードボイルド色が前面に出ているので、純粋にハードボイルドとして楽しめると思います。 ラストの締めくくりはオリジナルも本書も同じです。 事件の全容が明らかになるけど、主人公のやり切れなさが切ない、そういうラストです。 そして、ハードボイルドという小説ジャンル。 舌足らずな会話が多くて、禅問答みたいな会話も少なくありません。 「それって、どうゆうことよ」みたいなことが多いわけだけど、主人公たちがいつも十二分に語り合っていたら、そもそも事件も起こらないかも。 禅問答のような会話から、そこにちらりちらりと現れる真実の言葉をいかに汲み取るか。 その離れ業が、ハードボイルドの楽しさなんでしょうかね。 しかし、これだけだらだら書いてきて、実は感想らしき感想を書いてないことに気付きました。 ひとこと。 単独で読んでもおもしろいけど、やはり二冊読んだほうが、おもしろいです。 さらに言えば、レイモンド・チャンドラーを何冊か読んで、フィリップ・マーロウの世界を満喫してから、本書を読む。 たぶん、それがオマージュ作品の楽しみ方でしょうかね。 ありや、また一言で終わらなかった……。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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