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カテゴリ:本
著者のデビュー作「オーデュポンの祈り」、2作目「ラッシュライフ」、そして本書に至り、順序良く読んできてよかったと実感した次第です。 ストーリーはそれぞれ独立しているけど、登場する人物がちょっとずつリンクしています。 それが読んだ人にだけわかるので、ちょっとニヤリ、そういう楽しみ方もできる本になってます。 本書を読んで、「ラッシュライフ」の中に読んだ時はわかり得なかったリンク部分も発見するあたり、こういうところでも彼のファンははまっていくのだろうなあと思わせます。 さて、「重力ピエロ」。 前2作とまったくテイストの違う内容です。 成功体験に甘んじない姿勢がいいです。 仙台の街で多発する連続放火魔の謎を追う、泉水と春の兄弟。 その謎解きと同時に、泉水の視点で彼らの家族の情景が語られます。 そしてそれらを繋ぐかのように、遺伝子についての講釈がえんえんと続きます。 正直言って、ミステリー自体ははさほどサプライズはないです。 内容的に、読んでる方は後追いするしかないのですから。 だけど、それが家族の物語とうまく絡み合って、不思議な感動をおこします。 大きな矛盾を抱えつつも、それを乗り越えて愛と信頼で互いを包み込む家族の姿。 (しかし、それはコテコテな描かれ方はされずに、さらりとかっこよく表現されてます) それが、兄弟の行動に説得力を持たせます。 実際、彼らの選択は、「倫理的にどうよ」と問われるべきことなのだけど、読んでいてあっさりと容認できてしまうあたりが、すごいです。 著者の筆力といえるのでは。 (詳しく書けなくて、申し訳ないですが、ミステリーだとこれが限界です) そして、本書の成功は、独特の「軽さ」にあるのだと思います。 もちろんふざけた軽さじゃありません。 春の出生の秘密、父の闘病生活、ストーカー、少年犯罪……ここで描かれるモチーフの数々は、それだけでとことん暗く、書かれようによっては気がめいるような生理的嫌悪感に襲われる純文学小説になりえます。 それが、読後感爽やか、と言い切れるような、まさに重力を振りきったものになっているというのが、ミステリーを越えたサプライズ。 それが、タイトルにも繋がっていくわけですね。 純文学じゃ味わえない感動がそこにあるというかんじでしょうか。 (ほめすぎ?) まあ、私自身の実体験から考えてみれば、実際父親の余命幾ばくもないときに、病気について冗談をとばせる余裕なんてないのだけど……。 それでも、すべての小説にそんなリアルは求めなくてもいいし、そのリアルに欠ける軽さが、読み手を安心させてくれます。 うーん、でもやっぱりこの結末は救いがあるといえるのか、よくわからないです。 でもやっぱり説得されてしまうのだけど。 とらえようによっては、かなり悩める小説にもなってます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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