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カテゴリ:本
図書館で予約していたのが、ようやくまわって来ました。 さらりと一晩で読めそうな厚さです。 確かに一晩で読めたけど、内容もたった一晩のお話です。 真夜中から明け方までの数時間だけのお話。 東京のとある繁華街が舞台で、そこで交差する数人の人々に起こる小さな事柄が時系列に描かれます。 珍しく三人称で描かれていて、視点がまるで映像用カメラのようです。 俯瞰したり、遠くからズームアップしてみたり、なんだか映画を見ている気分になります。 それもたいして筋のないフランス映画みたいな趣。 登場する人物は以下の通り。 ちょっと人見知りの19才のマリ。 ジャズバンドをやってる大学生の高橋。 ラブホテルの用心棒のカオル。 ホテルの従業員のコムギとコオロギ。 ホテルにやってくる中国人売春婦。 その客のサラリーマン白川。 売春婦の元締めの組織の一員の男。 そして、マリの姉であるエリ。 世間知らずのマリが出会う夜の街、というふうに進められるストーリーと一言でいってしまっていいかどうか……。 一晩の彼女の彷徨で、人と人が繋がっていく予感が生まれるような、といっていいのか……。 なにか物語が始まりそうな予感をたたえて、その前に終わってしまうような印象を受ける小説です。 そして、真夜中なのに、眠らずに起きている人々の中で、1人眠っている登場人物がエリ。 寝ていて当たり前の時間なのに、寝ているのがなんだか異常な描かれ方をします。 他の登場人物たちが現代社会に生きるリアルな人間として描かれるのに、彼女だけが現世とあの世を行き来するようないつもの村上ワールドの人物みたいな感じ。 彼女の身に起こったことはなんなのかわからないままに、小説は終わってしまいますが……。 アフターダーク。 夜が明けてしまったので終わってしまったこのお話。 まるで夜の恐ろしい闇からかろうじて抜け出せたかのような描かれ方で終わります。 それは、マリが街を徘徊して、夜の闇の入り口をのぞいただけで明るい世界で引き返すことのできたことを指すのか。 彼女の知り得なかった、その先の闇は実際に進行中なのだけど、うまくすり抜けて家に戻れたことを指すのか。 家に戻ったマリがエリの隣で眠る。 目覚めの時に何か起こるのか…… あっさり終わってしまうので、結局なんなのよ、と思わずにはいられないのは確かです。 でも人と人が繋がることの喜びと、繋がることの怖さを同時に感じる小説でした。 おまけ。 登場人物の比ゆ的禅問答チックな会話や、BGMまで凝る情景描写の細かさはあいかわらず村上春樹、ってかんじです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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