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カテゴリ:本
◆ミステリー自体より、描かれた舞台背景の方が興味深い2冊。
●北森鴻「狐罠」 骨董の世界を舞台したミステリー。 真作と贋作をめぐる骨董界の仕組みが、殺人事件に絡めて描かれてます。 読んでいておもしろかったのは、殺人事件自体よりも、主人公たち骨董屋同士の化かし合いの部分。 まあ、エンターテイメント小説ですから、実際以上におどろおどろしい描かれ方しているのではないでしょうか。 しかし、読み進めれば、素人が軽い気持ちで入っていくと、容易にカモにされるのはよくわかります。 贋作でさえ贋作として流通するこの業界、高校生の時に小林秀雄の評論を読んで初めて知った時はカルチャーショックすら覚えました。 今ではテレビ東京の「なんでもお宝鑑定団」で、いかにだまされる人々が多いかが一般にも知れ渡るようにもなりましたが……。 なかなか常識が通用する業界ではないように思えます。 そんな骨董の世界に興味がある方におすすめの小説はこれ。 「人が見たら蛙に化(な)れ」 村田喜代子 ミステリーじゃない分、よりリアルな骨董業界が楽しめます。 人々の美と欲の追及が背中合わせにあるさまが滑稽に描かれてます。 ●荒俣宏「レックス・ムンディ」 ネタは、大ベストセラー「ダヴィンチ・コード」(未読ですが)と同じ。 キリスト教最大のタブーが、小説の核となります。 (本書の方が、発行年は早いです) テレビでも特集されていたから、小説をよんでいなくてもご存知のかたは多いと思います。 キリストの弟子の1人マグダラのマリアを奉るシオン修道会をめぐる逸話が、どちらの本にも盛り込まれています。 「キリスト教最大のタブー」(内容は未読の方のために伏せておきます)について、異教徒である日本人から見れば「なんで、それがタブー?」なんてことになるのだけど、キリスト教において、キリストという存在は圧倒的カリスマ性を持つ神的で唯一無二の犯すべからず存在なのだということの現れなんでしょうね。 「ダヴィンチ・コード」が、そのタブーの秘匿をめぐっての殺人事件が描かれるミステリーならば、こちらはオカルトチックなホラーに近いです。 始めは、インディー・ジョーンズみたいなアドベンチャー物なのかと思っていたら、終盤にいくつれにグロテスクな内容に変化していきます。 うーん、さすがに荒俣先生の小説だけあって、すごい博学ぶりが随所にあふれ出ているのですが、あふれ出すぎてちょっと説明調なストーリー展開になってしまった感も否めません。 また人物がなんともリアルさに欠けていて、誰に対しても感情移入できません。 つまり、あのページ数(それなりにあるのですが)に対してあれもこれもと詰め込みすぎて、ちょっと性急で書き込み不足の印象を受けてしまうわけです。 あれだけの内容だったら、もっとじっくりと紆余曲折な展開を用いて、読み手を攪乱してくれればいいのに……。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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