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カテゴリ:本
夏目漱石、森鴎外、幸田露伴、正岡子規、泉鏡花…… 芥川龍之介、菊池寛、与謝野晶子、宮沢賢治、…… 林芙美子、太宰治、三島由紀夫…… などなど、明治から昭和にかけての代表的な文士37人について、「食」という観点からその生い立ちを含む人生や作品がとらえていくという、いうなれば、「食の近代文学史」。 でも、近代文学史といいながらも、読みにくいものでは決してありません。 1人1人にかけるページ数は大してないし、食に関するおもしろおかしいエピソードから彼らの人となり、人生観、そして作品を窺うという方法論でかかれるために、間口は広く入りやすいわけです。 そんなわけで、近代文学の入門書感覚で読むのもいいかもしれません。 昨今は「あらずじで読む名作」なんていう本も売れてたりしますが、この本(97年刊行)もその手の手軽さを求める人にも、中高生にもお薦めです。 生きている者は必ず行う「食」という行為。 それぞれの生い立ちや性癖が、食には現れるもの。 よって食卓の風景を通して描かれる文人たちの姿は、それゆえにとても人間くさいです。 というか、人間くさいどころか、変人奇人大集合という感じです。 医者という職業(こちらが本業)がたたって潔癖症になってしまった森鴎外は、大概のものは火を通さないと食べられない。 さらに病的な潔癖症の泉鏡花は、大根おろしさえ煮て食べるしまつ。 天ぷら・鰻などこってり系が大好きな谷崎潤一郎は、女性においてもこってりと「フェチ道」を追求。 体が丈夫な坂口安吾は、ヒロポン打って仕事をこなし、致死量の睡眠薬を飲んで眠るという到底真似できない生活リズム。 ……そんな彼らの食生活が、作品と深く結びついていくのです。 そもそも近代という時代は、今のように作家という職業が一般に認められ尊敬もされるという時代ではないわけです。 そんな中で、文学(広義の)という世界でおのれの立ち位置を確立しようという人間は、相当な自意識の塊の持ち主と言えましょう。 本書でも、そこまで書いちゃって遺族は文句言わないのか、と心配になるほどスキャンダラスな文人たちの私生活が紹介されていきます。 当時の文士は、今とは逆の意味で一目おかれる存在だったわけで、エゴむき出しの自意識過剰な人間たちが、普通の商売人や教師や会社員なんてそりゃあできないってもんだな、なんて納得させられます。 とてもお友達にはなりたくないという方ばかりです。 (文豪の夏目&森コンビなど、変だけどそれなりにまっとうな人々もいるんですけど) まあ、後世に残る優れた文学作品を残した人間が、人間性まで優れているのとは限らないということですね。 で、本書を読んでの、私的お友達になりたくないワースト4。 島崎藤村 石川啄木 中原中也 岡本かの子 (順位不同・年代順) 島崎藤村は、かなり鬼畜に近いかも。 「文人悪食 」 著者:嵐山光三郎 出版社:マガジンハウス お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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