|
カテゴリ:本
チェックシート □ 自分は、良妻賢母だと思う、または将来なるだろうと思う。 □ 自分は、しっかり者で、そつなく何でもこなせるタイプだと思う。 □ 自分は、確固たる価値観に基づき、自律的生活を送っていると思う。 □ 自分は、家族を愛し、家族の幸福のために家庭運営に精一杯励んでいると思う。 □ 自分は、夫を愛し、尽くし支えてきた(または、いる)自負がある。 □ 自分は、家族から頼りにされ、自分あっての家族である自負もある。 □ 自分は、子供の幸福のために、子供の進路にも心配っていると思う。 □ 自分は、夫や子供たちが世間的に成功することが自分にとっても幸福である。 □ 自分は、子供のために子供の交友関係にも心砕くのは当然であると思う。 □ 自分は、親が子供を愛し尽くすように、子供たちも親の期待に応えるべきだと思う。 □ 自分は、失敗するとわかっているなら、子供に危ない橋を渡らせないのも愛情だと思う。 □ 自分は、地域の一員としても、努力をおしまず、人々の尊敬を得ていると思う。 □ 自分は、世間的に自分たちは恵まれ、成功者であると思う。 上記の項目に3つ以上当てはまる人ならば、本書を読めば、身につまされることでしょう。 それ以外の方でも、本書を読めば、妻として母としての自分のあり方を考えるきっかけとなるかもしれません。 本書は、アガサ・クリスティは、メアリ・ウェストマコット名義で書いた1944年の作品。 上記の項目にすべて当てはまる女性が主人公の小説です。 優しい夫、よき子供に恵まれ、理想的家庭を築き上げてきたことに満ち足りた思いであるジェーン。 自身も、美しく若々しい自信にあふれた女性です。 彼女はバグダッドに娘夫婦を訪ねたあと、イギリスに戻る途中で偶然学生時代の友人と再会します。 かつてその知性と美貌にあこがれた旧友の落ちぶれた姿に驚き憐れむものの、彼女の意味あり気な言葉によって、ジェーンの中に小さな疑惑の種が植え付けられます。 そのあと、ジェーンは悪天候のために、何日か国境付近の砂漠の停車駅に1人足止めをくらう羽目に陥ります。 何もすることのない時間のなかで、旧友の言葉に触発された結果、彼女は自分の人生を振り返ることになります。 理想どおりの自分の人生、家族は果たして、自分が思ってとおりのものなのか。 夫婦関係、親子関係は、自分が思っている通りの愛情にあふれたものなのか。 彼女の中の疑惑は徐々に大きくなっていくのです。 アガサ・クリスティが別名義で作品を書いたのは、これがミステリー作品ではなく、従来の作品と区別するため。 しかし、主人公ジェーンが自分の来し方を辿っていく様子は、十分にスリリングでサスペンスです。 普通の人の普通の人生ゆえに、読み手との距離の近さに、はっとさせられるのです。 小説は絵に描いたような良妻賢母が直面する人生の分岐点が描かれます。 そのわかりやすいまでのジェーンの人物像ゆえに、どこの家庭の主婦も陥りやすい独善性に、気付かされます。 なんだか、おもしろい育児書を読んでる気分にさえなります。 思わず、自分の家族に対する接し方まで、振り返ってしまいます。 ようやく、自分の人生の欺瞞に気付く、ジェーン。 イギリスに戻ったあとの自分のあり方を模索します。 そして、……。 その後の展開は、やはりアガサ・クリスティ、という感じです。 やはり英国小説は意地悪、です。 小説の最後、18ページほどのエピローグが付きます。 それはこれまでと一転、ジェーンの夫ロドニー目線で語られます。 つまり、ミステリーでいうところの解答編。 ジェーンの見つめてきたものを裏側から見たものが浮き彫りとなるわけです。 これまた、皮肉に満ちた結末です。 おまけ。 本書の解説を栗本薫が書いているのですが、なんだか解説というよりはひたすら感想文。 これもちょっとジェーンのように独りよがりでないの?なんて、皮肉に思ってしまうのでした。 「春にして君を離れ」 著者:アガサ・クリスティ 訳:中村妙子 (ハヤカワ文庫) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[本] カテゴリの最新記事
|