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2006年11月23日
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平凡な女性の平凡な人生を描いた「非凡な」中篇小説。
1992年に発表されたロシアの女流作家による作品です。
ヨーロッパで高く評価され、さまざまな賞を受賞とのこと。

舞台は、スターリン体制化のソビエト連邦。
主人公は、何よりも本好きで、容貌には恵まれない娘ソーネチカ。
彼女は、フランスから帰国した反体制的な芸術家ロベルトに見初められ結婚します。
そのときから、現実世界と書物の虚構の世界のはざ間にさまよっていた彼女の現実的人生が始まります。
当局の監視下で住む場所を転々としながらの、妻として母としての彼女の静謐な人生が、淡々と描かれます。

そんな淡々と描かれる平凡な女性の人生が「非凡な小説」であるのは、ソーネチカの人間性が特別だから。
彼女は常に幸せな人間として描かれます。
傍から見て幸福な状況下にある場合に、「私はなんて幸せなのだろう」と思うのは当然のこと。
しかし彼女は、最愛の人々の裏切りを知るというような、一般的には不幸とよばれる状況下においても、その中に何かしら「幸せな部分」を見出し満足できる人なのです。

そんなふうに書くと、彼女が無垢なる魂を持つ白痴的人間かと思われるかもしれません。
けど、そんな要素を持ちながらも、やはりそうでもない。
頭の中に世界文学がすべて詰まっているようなずば抜けた記憶力を持つという一面はあるし、家族を養うだけの生活力もある肝っ玉母さん的一面もある。
やはり普通のおばさん。

本のカバーには、ソーネチカを称して「神の恩寵に包まれた女性」とのコピーがのせられてます。
実際に「神の恩寵に包まれる」人間とはどういう者なのか、ということを考えさせられます。
世間的な幸運に恵まれることが、神の恩寵なのか。
世間的には不幸と思われながらも、当人が幸福感にあることが神の恩寵なのか。

世間的に彼女のあり方は、奇異に見えるし、理解されがたい。
人によっては、お人よしの愚か者に見えるかもしれない。
人にとっては、滅私奉公の聖女に見えるかもしれない。
しかし、彼女自身は世間的評価を気にかけないし、自分を客観視しない。

これが日本の小説ならば、「耐え忍ぶ」女性として描かれそうな彼女の人生です。
しかし、彼女自身にそんな悲壮感はありません。
自己犠牲や献身(実際にはそうとしか思えないけど)という自覚もないのです。
すべて、誰からも強要されずに彼女が自分のために選んだ「幸福」なのです。

自分が尽くし支えてきた人々に裏切られても、その愛する人々の幸福を素直に喜ぶ彼女。
自分を裏切るという行為が、彼らの幸せに繋がるのなら、それをも認めるというあり方。
自分を愛する人々たちの存在が、彼女の「外」にあるのではなく「内側」にあるのだからかもしれません。

筆者は、そんな彼女の特異性を強調するような描き方はしていません。
あくまでも、そんな人間もいる、というような淡々として描き方。
それでも、読後は深い余韻が残ります。
私自身、やはり彼女を「理解できない」と思うし、彼女のような人間になりたいとも憧れたりもしない。
それなのに、物語の終盤からずっと、私は泣きながら読んでいました。
自分が何に対して涙を流しているのかわからない。
作者も、読者の涙を要求するような描き方をしていない。
自分でも、不可思議な感情にとらわれたのでした。


「ソーネチカ」
著者: リュドミラ・ウリツカヤ
翻訳: 沼野恭子
出版社: 新潮社(クレストブック)





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Last updated  2006年11月23日 18時37分11秒
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