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カテゴリ:本
「チーム・バチスタの栄光」 著者:海堂尊 出版社:宝島社 以前、samiadoさんが紹介されたのを読んで、さっそく図書館に予約したものの、ようやく今頃回ってきました。 (何ヶ月待ったやら) 大学病院でたて続きに起きた医療過誤事件の謎をめぐる物語となっています。 大学病院という「業界」や、最近マンガでもその名を聞くバチスタ手術という心臓外科の最先端技術など、一般にはなじみのない世界が、専門的になりすぎずに、わかりやすくおもしろく描かれ、それだけでも読んで得した気分になります。 そして、なによりも登場人物たちがとてもいい配置となってます。 院長の依頼で、事件を調査する二人の「探偵」役が登場します。 彼らはキャラクターも、真相究明のための方法論も対照的。 まずは、語り手でもある心療内科の田口医師。 出世欲も仕事のやる気もないところが、彼をある意味名医ならしめるという逆説的存在です。 大学病院という象牙の塔の一員でいながら、中心から外れたところにいるというスタンスが、物語の進行の上でのスタンスとなって、読者側に立ったものの見方を示してくれます。 それから、その相棒となる厚生省の破天荒な役人・白鳥。 物語後半から登場するものの、見た目の存在感とマシンガントークで周りを煙に巻き、だれよりも強烈な印象を残します。 しかし、相手に口を挟む余裕すら与えてくれない、怒涛のような彼のしゃべり口は、物語の推進力でもあるし、内容もなかなか的を得ていて、読んでる方も煙に巻かれて説得させられてしまいます。 そんな対照性が、作品全体において効果的に役割分担と調和を成してくれています。 物語前半、のんびりした田口先生だけの物語進行は、ちょっと冗長気味でした。 しかし、白鳥氏とタッグを組む後半からは作品のテンポがぐんとよくなり、読者を飽きさせない効果が生まれています。 (もっとも、前半部分は特殊な舞台説明の場でもあるため、少々冗長でも仕方がないけど) といって、白鳥氏1人でも、やっぱりだめ。 田口先生という緩衝材がないと、読者からも受け入れられないような困ったお人でもあるし……。 やはり「組み合わせの妙」といえるのかもしれません。 実際に、水と油の二人の掛け合いはとてもおかしいです。 また、登場するさまざまな医療関係者の人物の書き分けも秀逸です。 性格づけと職務との関わりや診察室や手術室におけるチームプレイにおける影響なんかも描かれていて、興味深いです。 その辺はさすが作者が現役医師ならではのリアルがあります。 しかし、やはり今の世では医術は仁術ではないのか。 ……と思えるくらい、大学病院は「かけひき」の世界です。 その辺も、ちょっとリアルでいやになります。 でもまあ、出世だけを求める人々同士のかけひき、ではないです。 人命救助という大前提の目標があって、その実現と自己実現が重なって、その目的のためのかけひき、という好意的な見方もできます。 しかし、本末転倒になってしまうところも多々あり……というのが病院の世界なのかもしれません。 ただ、「謎」解明部分は、うーん……かな。 「そういう」動機の「そういう」犯人像、は今どきのミステリーとしては今更で、ちょっと物足りない気がします。 ただ、その謎の真相自体より、事件の起きた舞台や、謎の解明にいたる過程こそおもしろくて、この作品を楽しむ醍醐味といえるかもしれません。 続編も出ているようで、主人公たちがいいコンビぶりに、やっぱりと期待させられます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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