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カテゴリ:本
「サフラン・キッチン」 著者: ヤスミン・クラウザー 訳者: 小竹由美子 出版社: 新潮社 イギリス人の父とイラン人の母を持つ、イギリス人女性作家による作品。 イランからイギリスに渡り、イギリス人と結婚したイラン人女性マリアム。 娘サラとの間に起きた悲しい事件をきっかけに、故国イランに戻り、40年前に決別した過去と向き合う心の旅を始めます。 イランとイギリス、二つの異なる文明。 身分違いのためにイランで別れた恋人と、長く連れ添った優しいイギリス人の夫。 常に二つの間にゆれ続けてきた彼女。 またイギリスで生まれ育った娘のサラも、自分のアイデンティティに常に揺れています。 描かれるのは、イランにおける女性の生き方。 作者はそれを批判的視点からではなく、ただありのままを淡々と描きます。 確かに、欧米の価値観から見れば、過酷ともいえる閉鎖的な世界です。 封建的家長制度の中で、自由や権利を持たずに、家に閉じ込められて生きているようにも見えます。 それでも、「だから欧米的生活スタイルが優れている」という結論には、なりません。 両方の生き方を知ったマリアムは、イランの家や共同体という守られた世界に安らぎさえ覚えたりするのです。 もちろん、主人公マリアムと欧米的価値観の中にいる読者(日本人も欧米的価値観の方に近い立場にいるといえます)の間には隔たりがあります。 彼女たちの価値観を最初はなかなか理解できないでいます。 しかし、作者の分身ともいえる娘のサラが、両者の架け橋となり、彼女の視点を通じて、私たち読者もイラン女性たちの世界に足を踏み入れることとなります。 そして思いがけず、彼女たちの精神の豊かさや温かなぬくもりを疑似体験するのです。 ストーリーは、過去と現在が交差しながら、美しい詩的表現で綴られます。 必要以上に感情のこめない描かれ方に、かえって安心感を持って読み進めることができます。 登場人物もそれぞれに魅力的で、とくに彼女がイギリスにおいてきた夫、イランで再会する恋人、どちらも魅力的な男性で、彼女がいかなる未来を選択するのかやきもきさせられます。 終盤、マリアムがイギリスにわたるきっかけにもなった、40年以上秘めてきた秘密が明かされます。 それによって、マリアムが常に囚われていたものの正体もようやく理解できるのです。 その内容はかなり衝撃的です。 それが、かの地の親子関係のスタンダードだとは思えないけど、私にはすごくショックでした。 ショックのあまり涙が止まらなくなりました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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