「巨匠とマルガリータ」
ミハイル A.ブルガーコフ
inalennonさんのブログで、絶賛されていたのを読んで、興味を持って手にとった1冊です。
世界的名作(らしい)なのに存在さえ知らなくて、このまま一生知らないままで終わっていたかもしれない1冊でした。
inalennonさんに感謝です。
出会えて僥倖だったと実感の本でした。
作者ブルガーコフについて、ざっくりと。
スターリン体制化のソ連の天才作家。
書いたものが片っ端から、体制批判と当局から睨まれ発禁処分。
作家としては不遇のまま生涯を終えます。
作品が再評価され、世に出たのは1960年代以降、彼の死後です。
本作は、1930年代に約10年かけて執筆されたマジックリアリズム大作。
宗教を否定した(正確にいうと教会の権威を否定した)ソビエト連邦。
その中心の街、モスクワに降臨する悪魔とその子分たち。
人々を惑わせ、時には殺し、破滅させる。
街を破壊し、はたまた死者たちを集めて大舞踏会を催す。
まさしく「悪魔のような所業」。
なんだけど、なぜか痛快。
だけど、めくるめく展開に、方向性も着地点も見当がつかない。
読み手(私)も、幻惑されながらも、ページをめくる手がとまりません。
そうこうしているうちに、ようやく主人公が登場。
キリストを処刑したローマの提督ポンティウス・ピラトゥスの物語を書いた作家・「巨匠」。
(もちろんあだ名に決まってますby阿久悠)
共産主義国家で受け入れられるはずなく、心身ともに追い詰められ廃人寸前にある。
その巨匠の恋人が、美しいマルガリータ。
巨匠を救うためには、悪魔とだって取引するし魔女にだってなる。
神を否定して、人間が人間を支配する社会。
神はもはや救いの手を伸べることもない。
かといって、信仰を説いているわけではないようなんだけど。
寓意やアイロニーに満ちたこの作品は、やはり共産主義社会を痛烈に批判した書として、出版を認められなかったのも当然なのかもしれない。
しかし、彼が皮肉った相手はイデオロギーに関係なく、20世紀に生きる人々すべてだったのかも。
悪魔に翻弄される人々の滑稽で醜いざまは、民主主義の人だって変わらない。
そして、一連の悪魔による混乱に対して、なんとか合理的かつ科学的解釈を試みる人々も因習や迷信を捨て去ったまさに20世紀(もちろん21世紀も)的われわれの姿。
本当に「悪魔の所業」だったのに……。
思わず、そうつぶやいてしまう読者も、実生活においては何か不可解なことがあったら、なんとか合理的説明を見出そうとするだろうし……。
それが、いいとか悪いとかじゃなくて、われわれはこれからもそう生きていくのだろうということを見せ付けられているような……。
……とりとめのない感想文になってしまいました。
私の中では、まだまとまっていない状態です。
いろんなことを考えさせられるというか、いろんなこと考えてもいいというか。
でも、読みにくいということは全くなくて、ほとんど一気読みでした。
映像化もされているようです。