2005年のマイベスト10冊
年末は旅行などで忙しかったので、今頃2005年を振り返ってみます。第1回目は、読書編。(2回目以降あるか不明)昨年読んだ本の中で、お気に入りの10冊をあげてみます。不思議なもので、読んだ直後に「おもしろい」と思ったものと、時間をおいてから「おもしろかったな」と思うものとは違いますね。ミステリーなんかは、その場のサプライズが売りだから、後々思い入れするのは難しいです。そういう意味では、他の小説と同じ土俵に上げてしまうのは、不利なんですけど……。まあ、あくまでも私個人の「10冊」ですから。ちなみに昨年発行された本ということではないので(というか、10冊の中に2005年刊は1冊もない……)、あしからず。それから、順位はつけません。並び方は発行年順です。●幸田文「きもの」(新潮社文庫) 以前書いた感想文は、こちら。言ってしまえば「家族小説」。なのに、人間関係の機微の描き方が絶妙で、今の時代にもすごく考えさせられます。淡々としたストーリーなのに、先が気になって仕方なくて、一気に読んでしまいました。●村上春樹「海辺のカフカ」(新潮社)以前書いた感想文はこちら。村上春樹の作品の中では好きなほうではないけど、まあそれなりにおもしろかったかな、と。●小川洋子「博士の愛した数式」以前書いた感想文はこちら。映画化もされるようですね。寺尾聡の博士、イメージとしては若すぎるという気もするけど。●島田雅彦「美しい魂」(新潮社)「無限カノン・3部作」の第2部の作品。愛と音楽に生きる一族の末裔カヲルと不二子の恋が中心に描かれます。不二子のモデルが、皇太子妃雅子さま。現実の皇室入りの事情と小説がオーバーラップして、すごくスリリングでした。愛する人が手に届かない高みに行ってしまうあたり、三島由紀夫の「春の雪」をも彷彿とさせられます。というか、「春の雪」のオマージュなのかも。第1部の「彗星の住人」はブロンテ「嵐が丘」とオペラ「蝶々夫人」の世界だし。しかしこの3部作、1,2作目はおもしろくていいのだけど、3作目「エトロフの恋」がちょっと尻すぼみの感がぬぐえません。●篠田真由美「アベラシオン」(講談社)唯一のミステリーです。すごく読み応えのある1冊。豪華絢爛で耽美的で残酷で、ペダントリーに満ちた物語世界が描かれます。イタリアが舞台だけど、主人公が日本人留学生なので、彼女の視点から描かれる物語にすんなり入れます。それでもって旅行するくらいじゃ味わえない、イタリア芸術、歴史、階級社会に触れることもできます。私としては、本筋よりもその膨大な薀蓄に心惹かれました。実際、盛りだくさん過ぎるストーリー展開には、ついて行くのが大変でくらくらします。そして驚愕のラスト。別世界に飛んでいってしまう気分です。●梨木香歩「家守綺譚」(新潮社)以前書いた感想文はこちら。●いしいしんじ「ポーの話」(新潮社)以前書いた感想文はこちら。●姫野カオルコ「ツ、イ、ラ、ク」(角川書店)以前書いた感想文はこちら。海外作品2作●J.K.ローリング「ハリー・ポッターとアズガバンの囚人」(静山社)以前書いた感想はこちら。「ハリポタ」シリーズは4作読みましたが、これが一番好きです。●ジュンパ・ラヒリ「その名にちなんで」(新潮社)現代アメリカにおけるインド系移民の家族の物語。淡々とした小説ながらも、読後大きな余韻に浸ります。1世と2世の世代間の対立、親子間の反発……、インド系作家によるインド系アメリカ人の物語であっても、描かれるものはどの人種にもどの家族にも共通のもの。30年あまりの間の家族のあり方の変化に大きな共感を持って読みました。主人公ゴーゴリが同世代だけに、大いに感情移入させられました。そして親が子に最初に与える「名前」の重みをあらためて実感しました。自分の名前は、自分の人間形成に大いに影響するか?私もイエスだと思います。