読まなくてもいい話

子供の頃の母の匂いが懐かしく、昔、母に
「あのころどんな香水を使ってたの？」と、問えば、「忘れた」と。
「あら～？最近使ってるゲランのサムサラ以外は知らないのよ」と。
それでも、
懐かしい子供のころの母の匂いを求めていたことがあった。
ある日、デパートで、
ふいに懐かしい母の香りがよぎった。見ると
一人のデパート店員の若い女性が大股で前方を行きすぎていく。
急いで後を追って、もしもしと声をかけ、
香水の名前を聞き出すことに成功！
「ムスク」
それは、男性用の香水らしかった。
それから２０年も経って、最近思いだして、
その香水を探してみたが、ひとつも無い。
ムスクが、（麝香が、）捕れなくなったからだそうだ。
さみしい限りだ。
ムスクの名のつく香水を見つけても、ちょっと違う。
いろんな薬品が混ぜてあるらしいのだ。

あああ、昔の「ムスク」どこかに無いものかな？

長女に聞いてみる。あのころのムスク懐かしくない？
貴女の懐かしい母親の匂いって、何？

まさか、柔軟剤のハミングの匂いだとか、
洗濯糊のキーピングだとか、
ナフタリンだとか言わないでほしいなぁと。

するとメールが来た。

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デパート店員をおっかけてずんずん進む母に
ついてゆくのは必死でした。
何考えとんや～って感じですけど、
それですら「またか…」というほどの
奇行の多い母でした。

「ねぇ、あなたの香水何使ってるの？」
って、恥ずかしいなぁとも思うんだけど、
それですら「またか…」というほどの
母でした。

で、それからムスクの匂いぷんぷんで
すっかりムスクが嫌いになりました。
ぐうぇ～～。

あたしにとって母の匂いは、
油絵の具の匂いかな。
油絵の具の匂いとかペトロールや
リンシードオイルの匂いがすると
小さい時の風景がよみがえります。
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娘がくれた、私へのオマージュ。
なんだか、　うれしい。
長女が小さい頃は、絵でも描くゆとりがあったのか？

（ペトロール、リンシードというのは油絵の具の溶き油）