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カテゴリ:中学生時代
頭の良い子供は、早熟だそうだ。
悲しいかな、 私は、おくてだったから、やっと中学2年生で初恋がやってきた。 1955年。私はまだまだ可愛い中学2年生だ。 クラスには、大人のような男の子が一人いた。 橘 くん(仮名) 背も高いが、からだ自体が、他の生徒より、ひとまわりも大きいのだ。 校内相撲大会では、あたりかまわず投げ飛ばし、必ず優勝した。 野球部のキャプテンで、声も太くしゃがれていた。 その上、頭が良くて、生徒会のリーダーだった。 眉は、黒々と長くして、 沖縄人のように大きく見開いたその二重まぶたの目は、 黒くきらきらして見えた。 詰め襟の制服は、なんだか色褪せて、よれっとしていたが、 どうどうした態度が、かえって頼もしかった。 私はある日の相撲大会の時、友人に誘われて、 たった一回だけ、校庭の一角にある相撲場に行ったのだが、 彼の裸の肉体が、完全に大人の男性に見えたので、うろたえた。 肉体をぶつけあって戦っている姿を正視できずに、たった2秒くらいで、 そそくさと帰ってしまった。 だからと言って、嫌いにはならなかった。 だからと言って、ラブレターなど、書くつもりはなかった。 ただ、ただ、片想いなのだった。 すき いつもこころの中に橘くんはいた。 (いつか、二人の目が合ったら、どんなにうれしいだろう) (何かの拍子に、出会い頭に、ぶつかるというのは、ないものかなぁ~) と、想い巡らすのだった。 すると、ある日、お掃除をしていて、バケツを持って振り向くと 彼も丁度教室に入って来て、ぶつかりそうになった。が、すばやい彼は ひらりと身をかわして、おっとっと!と言った。 その時たった一回、目が合った。 それだけで、他は何にも起こらなかった。 一瞬の、あの目の奥にあるかもしれない何かを 忘れないように心にしまった。 卒業するとき、私は、彼以外、 もう、決して、決して だれも好きにならないな。と、思った。 私が40才の頃、中学校の同窓会が盛大に行われた。 それは、私達の学年では、初めてのことだった。 私も、はるばる参加した。 大勢の参加者の中に、その、あこがれの橘くんはいなかった。 その昔、橘君の従兄弟の欅くんも、同級生だった。 この欅くんは、橘くんのようには、目立たなかった。 ちょっと暗くて、おとなしく、運動もにがてで、成績もぱっとしない、 小さな瀬戸物屋さんの長男だった。 同窓会で会った時、欅くんは、おばさん連中に囲まれていた。 聞けば、とてつもなく大きい仕事をしていて、 成功したらしい。 すごく美人の奥さんをもらったらしい。 一方、あの、中学時代きらきら光っていた橘くんのうわさは、聞けなかった。 “どこかで、電車にゆられていたのを見たことがある。” “現在、どこに居るのか定かでない。” そのくらいだった。 人間の生きる明日って、ほんとうにわからない。 私、男性を見る目がないことだけは、はっきりしている。 遠い昔 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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