読み応えのある医療モノ。かなりオススメ。
医療モノ。傑作漫画「メスよ輝け!!」の原作者(外科医)が、漫画だけでは語り足りないと感じて書き下ろした小説です。医療モノといえば、「白い巨塔」「医龍」「チームバチスタの栄光」など古今著名な作品がありますが、「メスよ輝け」および当小説は、それらに引けをとらないばかりか、詳細な医療情報と主人公の外科医としての矜持という点において、No.1の魅力を持っていると思う。基本的には、漫画「メスよ輝け」を詳細にトレースしているが、主人公当麻医師が甦生記念病院に来る前と台湾を訪問する様子が漫画になかったので興味深い。また、国内ではじめての脳死肝移植を行った当麻が、肝移植学会の重鎮たちに喚問される段の当麻の熱弁は、これこそ作者の大鐘稔彦氏の主張したいことだろうと思わせるものがあった。学生時代たくさんの漫画単行本を集めていたが、就職、転職、結婚、マンション購入など、転居のたびにライブラリを整理してはBookOffへ出してきた。そんな荒波を、「メスよ輝け」は乗り越えている。(ちなみに他では「勇午」と初期の萩尾望都作品くらい。)繰り返し読むと、医療用語を覚えてしまいます。「ムンテラ」「アンギオ」「パンペリ」「アッペ」「ヘモ」「エピドゥラ」「オーベン」「ウンテン」」「CCに、肝メタ!」「うん?ミルツをとる?」「ルーY」「ボビー」「ゴアぐる」「ボスミン、静注!」「ティッシュトート」などなど。登場人物の中では、アララギ先生と島田院長の時代がかった物言いがわりと好きです。「畢生(ひっせい)のお願い」とか「尼寺へ行きゃれ、じゃないけど・・」とか。主人公の当麻先生は、こんな人が担当医だったら最高なんだけど、ちょっと変。40歳くらい?で独身で彼女もなく医療一筋なのだが、フィアンセとの死別が大きいことはわかるけど、かなりモテモテなのにストイックすぎるでしょう。現実にいそうなのは実川医師の方だろう。彼自身、野望をもった大学人であると認めているものの、なかなか真摯なハートを持っていて好感持てます。生命を救う行為が行えない-死に向かっている患者がいて、それを救うことのできる医師がいるのに。永らく脳死肝移植はそのようなジレンマがあったようです。現在は、ドナー登録制度ができましたが、現実的でない条件があるため脳死ドナーは僅少。日本の移植医療は、そのほとんどが生体肝移植です。そういった意味で、日本の脳死肝移植における法整備はまだまだお粗末といえます。日本の政治のダメな一面です。 とまれ、全6巻の本著ですが、一気読み、いけます 。短いくらいです。文庫化されてよかったですよ、幻冬舎ナイス。