ひなたのにおい

　ハゲは下腹部から始まった。
　確かによくなめていた。
　ショリショリザリザリ音をたててなめていた。

　　　　　　　



　なんか、ちょっとお腹の毛が薄くなってなーい？と気づき、
　３～４日様子を見ている間に一気にハゲは進行した。

　獣医さんでは「皮膚はキレイだから皮膚病ではありませんね。
　アレルギーかもしれませんし、ストレスによる舐めすぎかも
　しれません。」と言われ、
　抗アレルギーの注射とフードという処置になる。
　注射には週一回通うことになった。

　ところが、５ヶ月も通っているのにいっこうに治る気配がない。
　最初はお腹だけだったのが、腰まで広がっている。
　どこまでハゲるのか、とても心配だった。

　私は、アレルギーならこれだけ注射をしていれば治ってもいい頃だ
　と思い始めていた。アレルギーなんかじゃないんじゃない？
　ストレスか？！

　この頃、私たち夫婦は共働きで、早朝から深夜まで
　グナは一人で留守番だった。寂しかったのか？
　でも一人留守番は今に始まったことではなく、私たちが帰宅しても
　部屋は荒らされてないし、過剰に甘えてくるわけでもない。

　日あたりの悪さ。
　これだと私は思った。

　このとき住んでいたのはケヤキ並木に面するペット不可のマンション。
　隠れてグナを飼っていた。
　東向きで朝陽があたるはずなのに、ケヤキが茂る春夏は、
　葉で陽の光がさえぎられ、我が家はひとすじの陽も当たらない。
　植物はすべて枯れる、そんな住まいだった。

　ここでグナはもう４年以上もひなたぼっこをしていないのだ！

　その前に住んでいたマンションは、やはりペット禁だったが、
　そこは日あたりだけは素晴らしく、グナはひなたぼっこ三昧だった。



　そういう結論を勝手に導き出し、私たちはもう病院に行くのをやめ、
　休日をすべて返上して「陽当たり良好物件」を探し始めた。

　賃貸物件を何十軒見て歩いたことだろう。
　どうも納得がいかない。

　結局、現在の分譲マンションを買ってしまった。
　買うつもりなどなかったのに。
　グナのために。
　でも、とても静かで眺めがよく、陽当たりは最高。

　そしてグナのハゲから約１年後、お引越し。
　グナ、環境が変わったことにあまり不安を示すことなく
　毎日ひなたぼっこ。

　・・・いつしかハゲは治っていた。



＊＊＊＊＊ おまけ：若かりし頃のグナ ＊＊＊＊＊

　　　　　　　

　４歳か５歳くらい。コロコロとよく太っていた。
　冬でバンバンに膨らんでいる所が可愛くて私はこの写真の顔が大好き。