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カテゴリ:柴田よしき
「もう森へなんか行かない」シャンソンがエンドレスで鳴り響く アパートの一室で顔を潰された男の死体が発見された。 部屋の借主である高見健児と風子の夫婦は行方不明。 翌々日、高見の絞殺死体が見つかるが、風子は依然姿を消したまま。 刑事・遠野要は、風子の過去を追ううちに、忘れ得ぬ出来事の相手が 風子であると気づき、烈しく風子を求め…。 時間と距離を超え、繋がる謎。愛とは何か、人間性とは何かを真摯に 問い掛ける、長編ミステリ。(「BOOK」データベースより) この作品は、時系列がかなり入り組みながら物語が進んでいきます。 そのことにより、主人公・風子の不幸な生い立ちや、事件の鍵となるものが 断片的に、少しずつ解き明かされていきます。 このストーリー展開がこの作品の一番の魅力のような気がしました。 風子は、まるで不幸に吸い寄せられるように転落の人生を歩んできました。 ちょっと光が見えたかと思うと、あっという間に暗闇の中に放り出される。 不幸の影を背負う儚げな女性。本人の意思ではないのに、関わった男性達をも 不幸に引きずり込んでしまう。ある意味『魔性の女』なのかもしれません。 衝撃的な殺人事件。その重要参考人として指名手配された風子は、 あるひとつの目的のためだけに、逃亡を続けていきます。 風子の行方を追う刑事・遠野要。彼は、過去に一度だけ風子と出会っており、 ほんの束の間、心を通い合わせたことがあった。 彼もまた、自分が抱える様々な問題に次第に追い詰められていき、 風子の生き様にシンクロしてしまったかのように転落していく。 正直、遠野が転落していく理由にはどうにも身勝手さを感じていたんだけれど、 終盤で本当の理由が明かされ、なんだかやるせない気持ちになりました。 殺人事件の被害者は一体誰だったのか?なぜ顔を潰されていたのか? 大きな意味があると思っていたことが、実はあまり意味のないものだったり、 思いも寄らなかった人々が事件に関係していたりと、最後まで気が抜けないまま 事件の真相は意外な展開を見せていきます。 文庫本で上・下と2冊に渡る長編大作だったのですが、すっかり惹き込まれ、 長さを感じる間もないまま一気に読んでしまいました。 まさに圧倒的な筆力。あらためて柴田よしきさんの奥深さを感じる作品でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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