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カテゴリ:辻村深月
ある快晴の日。人気作家チヨダ・コーキの小説のせいで、人が死んだ。 猟奇的なファンによる、小説を模倣した大量殺人。この事件を境に筆を 折ったチヨダ・コーキだったが、ある新聞記事をきっかけに見事復活を遂げる。 闇の底にいた彼を救ったもの、それは『コーキの天使』と名付けられた少女 からの百二十八通にも及ぶ手紙だった。 事件から十年―。売れっ子脚本家・赤羽環と、その友人たちとの幸せな共同 生活をスタートさせたコーキ。しかし『スロウハイツ』の日々は、謎の少女・ 加々美莉々亜の出現により、思わぬ方向へゆっくりと変化を始める…。 少し前から、ちょっと気になっていた作家・辻村深月さんの作品。 この物語は『スロウハイツ』というアパートが舞台になっています。 アパートといってもリビング・キッチン・風呂・トイレなどは共同で、 3階がオーナーである脚本家の赤羽環、1・2階にある6部屋には 売れっ子小説家のチヨダ・コーキをはじめ、敏腕編集長、漫画家の卵、 映画監督の卵、画家の卵など、環の友人達が暮らしています。 その設定は『現代版・トキワ荘』といった感じで、作品の中でも度々 『トキワ荘』について触れられる場面があります。 最初のうちは、文章とか雰囲気にどうも馴染めない感じがあって、 「上・下巻と2冊も読めるのか、私?」と、若干不安になったのですが・・・。 結果から言うと、読めないどころか、なんと2度読みしちゃいました(笑) この話、時系列はバラバラだし、場面がぶつ切りに入り乱れていたりするから、 なんていうか、全体的にとっ散らかってるような感じがするんですよ。 あちこち穴だらけのままストーリーが進んでいく、みたいな。 後半にいくにしたがって、少しずつその穴が埋められていくんだけれど、 その順番もなんかバラバラな感じで(笑) ラスト近くで色々な謎が解明されるんだけど「ああ、あれがそうだったのね」 と納得できる伏線が引かれていたものもあれば、「え~っ?聞いてないよ~」 って思っちゃうような『隠し玉』的なものもあったり。 あと、前出した『ある一つの場面』を後になって別の登場人物の目線で描くこと によって、「え、そういうことだったの?」という新たな事実が判明したりするし、 手紙の一文が何度も登場したりするから、結果的にかなり重複する部分があるので 読む人によっては「ダラダラしてる」と感じることもあるかしれません。 でも、私としてはむしろひとつひとつのエピソードをすごく大切にしている感じが うかがえて微笑ましいような気持ちになりました。 すべての謎が明かされたあと、『エピローグ』として、数年後が描かれます。 ラストはすごくホワッとしていて、読後感はすごくよかったです。 でも、なんとなく何か忘れ物をしたような感覚が残ってしまって・・・。 だからもう一度最初から読み直しちゃいました♪ 自分の読書歴の中で、一つの話を読み終わった直後に完璧に再読するなんて あり得ないことだったし、ましてやノベルスで550ページほどの長編ですから 自分でもちょっとびっくりしています。 不思議なもので『手札』がすべて揃った状態で読むと、違う話を読んでいるような 気すらしてきて、まったく飽きることなく読み進めることができました。 最初に読んだ時には深く考えずに読んでいたセリフや場面がすごく心に響くんですね。 ラストのエピソードは、最初に読んだ時よりもさらに感動ものでした。 セリフ回しにちょっと癖がある感じがするし、独特の雰囲気もあるから たぶん好き・嫌いが別れる作風だと思うんですよね。 全体の構図としてはまとまりが悪いような気がするし、すごく『不器用』な感じ。 失礼ながら『巧い』作家さんではないと思います。 でも、どうやら私ははまってしまったみたいです。この作品、すごく好きだなー(*^-^) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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