『ロードムービー』 辻村深月
一緒に迷って、一緒に泣いて――早く大人になりたい、と思った。『冷たい校舎の時は止まる』から生まれた珠玉の短編集 ほろ苦くも優しい辻村ワールドへようこそ。誰もが不安を抱えて歩き続ける、未来への“道”。子どもが感じる無力感、青春の生きにくさ、幼さゆえの不器用…。それぞれの物語を、優しく包み込んで真正面から描いた珠玉の三編を収録。涙がこぼれ落ちる感動の欠片が、私たちの背中をそっと押してくれます。はじめましての方にも、ずっと応援してくれた方にも。大好きな“彼ら”にも、きっとまた会えるはず。 (講談社HPより)収録作品『ロードムービー』『道の先』『雪の降る道』『ロードムービー』 小学5年生のトシとワタルの物語。 春休み、トシは親友のワタルと共に家出を決行した。 それは、家の事情で引越しを余儀なくされたワタルと 離れ離れにならずに済むためにトシが考えた作戦だった。 成績もよく運動もでき、常に委員長を務めるトシは クラスの人気者だったが、クラス内で幅を利かせている 女子生徒・アカリの「ワタルとは仲良くしない方がいい」 という言葉を無視してワタルと仲良くなったことから 執拗な嫌がらせを受けるようになった。 周りが敵だらけになっていく中、ワタルの協力の元 トシは以前から目指していた「児童会長」に立候補する。 物語は、春休みの家出の話、その少し前の学校内での出来事、 この二つの視点が入り組んだ形で進んでいきます。 中篇でありながらも、相変わらずあちこちに伏線があり 辻村さんならではの仕掛けが施されています。 何があっても「ぶれる」ことのないトシとワタルの友情が 痛々しくて、でもすごくあたたかくて胸に染みました。『道の先』 塾の講師のアルバイトをしているちょっと気弱な大学生と 気に入らない塾の講師次々に辞めさせるほどの影響力を持ち 女王様のように振舞う女子中学生の物語。『雪の降る道』 親友の死によって心を閉ざしてしまった小学生の「ヒロ」と その幼馴染の「みーちゃん」の物語。 ヒロに元気になってもらいたくて、あちこち歩き回って 探してきた「宝物」を毎日ヒロの元に届けるみーちゃん。 そんなみーちゃんに対してもヒロは心を開くことができず 暴言を吐き拒絶してしまう。 どんなに傷ついてもヒロの元を訪れるみーちゃんだったが ある雪の日、ヒロに「みーちゃんなんかいなくなっちゃえ!」 という言葉を投げかけられた後、行方不明になってしまう…。3篇とも、辻村さんのデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』のキャラクター達がなんらかの形で登場します。時系列でいうと、未来、近い未来、過去にあたる物語ですがはっきり名前が出てくる訳ではないので、『冷たい校舎の~』の内容を忘れていると、誰が誰だかわからないまま終わる可能性も(笑)キャラクターを覚えていれば、かなり感慨深いものがありますが、未読の人でも十分楽しめる作品ではないかと思います。というか、この作品を読んでから『冷たい校舎の~』を読むっていうのも悪くないかもしれません。この作品のラストには「それもありだな」と思わせるようなちょっとした仕掛けが施されていますから。以下はネタバレになっていますので未読の方はスルーしてくださいね。『「ロードムービー」主人公「トシ」の両親は「冷たい校舎の~」の桐野景子と諏訪裕二(生徒会長)。「トシ」は、昔から男言葉で話していた景子の影響を受けて男言葉を使っているが、実は「慧恵(としえ)」という女の子。作品中に出てくる「タカノのおじさん」は鷹野博嗣。その部屋にいた「お姉さん」は辻村深月。物語のラストで、2人は結婚する。「道の先」塾の講師のアルバイトをしているちょっと気弱な大学生は「冷たい校舎の~」の片瀬充だと思われる。携帯で連絡を取った東大生の友人は、鷹野博嗣ではないかと…。ラストでは佐伯梨香と「榊くん」こと菅原榊の元へ向かう。「雪の降る道」ヒロは鷹野博嗣、みーちゃんは辻村深月、菅にいは菅原榊。「冷たい校舎の~」に登場した鷹野・深月・榊の過去のエピソードの補足のような形になっていて、この話によりなぜ鷹野があれほど深月を大事にしていたかがよくわかる。ラストに「エピローグ、またはプロローグ」というタイトルで「冷たい校舎の~」のプロローグの内容がそっくりそのまま使用されていて、「ここから物語が始まる」という感じの心憎い演出になっている。 』