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カテゴリ:辻村深月
「ぼく」は小学4年生。不思議な力を持っている。 忌まわしいあの事件が起きたのは、今から3ヵ月前。「ぼく」の小学校で飼っていた うさぎが、何者かによって殺された……。大好きだったうさぎたちの無残な死体を 目撃してしまった「ぼく」の幼なじみ・ふみちゃんは、ショックのあまりに全ての 感情を封じ込めたまま、今もなお登校拒否を続けている。 笑わないあの子を助け出したい「ぼく」は、自分と同じ力を持つ「先生」のもとへ と通い、うさぎ殺しの犯人に与える罰の重さを計り始める。 「ぼく」が最後に選んだ答え、そして正義の行方とは!?(講談社BOOK倶楽部より) 残虐な事件が起きた時、必ずといっていいほど犯人の生い立ちや背景が TVや週刊誌などでセンセーショナルに取り沙汰される。 それを見る人達は、興味本位ということだけでなく、そこにほんの少しでも いいから『犯行に至った理由』を見出したいという気持ちがあるんだと思う。 『理由のない悪意』など存在しないと信じたいから。 でも、やっぱりそれはきっと存在するんだと思う。信じたくはないけれど。 全く理由のない絶対的な悪意。これは、本当に恐い・・・・。 この作品には、そういった類の『悪意』の持ち主である医大生が登場します。 小学校に忍び込み、飼われているウサギ達を裁縫鋏で切り刻むという残虐な 方法で傷つけ殺したうえ、逃げ隠れするわけでもなく堂々と校門の前で生徒が 登校してくるのを待つ。第一発見者となるその子供の反応を楽しむために。 さらに、ネットのサイトにウサギ達を殺した時の写真と第一発見者である女の子 の写真を掲載し、おちゃらけた文体で事細かに犯行の詳細を記す・・・。 あまりの恐ろしさと憤りで、読んでいて呼吸が苦しくなり吐き気がしました。 ウサギ達をこの上なく可愛がっていたふみちゃんは、事件の第一発見者となって しまったショックから、全ての感情と言葉をなくし心を閉ざしてしまう。 ふみちゃんの幼馴染である「ぼく」は、ふみちゃんに笑顔を取り戻してもらうため 自分が持つ、不思議な「力」を使おうと試みる。 その「力」というのは、ある法則をもった「言葉」。その言葉を使って、人の心を 縛ったり、罰を与えることができる。 「力」を使い、ウサギを殺した医大生と一週間後に面会する機会を得たぼくは、 その医大生に「罰」を与えることを心に決める。 「ぼく」は「力」について学ぶため、同じ「力」を持つ「先生」のもとに通い始める。 お母さんの親戚でもある先生は「ぼく」を「あなた」と呼び、子供ではなく一人の 人間として対等に向き合い、とても丁寧に「力」についての知識を与えてくれる。 時に驚く程ドライな反応を示す時もあるけれど、根底には優しさがあふれている。 その「先生」と過ごした7日間の中で、「ぼく」はある「答え」を出す・・・。 この作品では『悪意』というものが容赦なく徹底的に描写されています。 その『悪意』にさらされ心を閉ざしてしまったふみちゃんと、その『悪意』に対して 「許せない」という気持ちを全身全霊で訴える「ぼく」の存在が泣きたくなる程 切なくて、そんな二人をぎゅっと抱きしめたくなるくらい愛おしく感じました。 『罪と罰』というものを改めて考えさせられる、本当に深い作品でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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