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カテゴリ:辻村深月
「今から、俺たちの学年の生徒が一人、死ぬ。―自殺、するんだ」 「誰が、自殺なんて」「それが―きちんと覚えてないんだ。自殺の詳細」 不可思議なタイムスリップで三ヵ月先から戻された依田いつかは、 これから起こる“誰か”の自殺を止めるため、同級生の坂崎あすな達と “放課後の名前探し”をはじめる―。(上巻「BOOK」データベースより) 「あいつだ。俺、思い出した」「あいつ?」「クリスマス・イヴの終業式の 日の自殺者。あいつに間違いないよ。今日、全部、思い出した」 “誰か”の自殺を止めるための“名前探し”も大詰めに。 容疑者を見守る緊迫感、友だちと過ごす幸福感の両方に満ちた やさしい時間が過ぎ、ついに終業式の日がやってくる―。> (下巻「BOOK」データベースより) 主人公・依田いつかは、何事に対しても熱くなることがない チャランポランな高校一年生。女の子に対してもいい加減で、 モテるのをいいことに、次から次へと彼女を変えていく。 親友の長尾秀人からは、常にその不誠実な態度を諌められている。 ある日デパートの屋上で、突然、いつかは妙な違和感を感じた。 何かがおかしい。「今日は一体、何月何日だ?!」 携帯電話の画面に表示された日付は「10月11日」 いつかは愕然とする。「これは、3ヶ月前の日付だ・・・」 なぜか3ヶ月後の記憶がある。これは「タイムスリップ」なのか。 3ヶ月間の記憶を辿っていたいつかは、ふいに思い出した。 自分と同じ学年の生徒が自殺してしまったということを。 翌日、いつかはクラスメートの坂崎あすなという女子生徒に 「タイムスリップについて教えて欲しい」と話し掛けた。 出身中学も同じだが、これまでほとんど話したことのない いつかの唐突な申し出に驚きを隠せないあすなだったが 「タイムトラベル」に関して興味があり、多少の知識も あることから、いつかの相談を受けることになった。 近い未来に、自分達と同じ学年の生徒が自殺する―。 いつかの話を信じたあすなは、自殺を食い止めるため 名前もわからない「誰か」を探す手助けをすることにした。 その後、親友の秀人、秀人の小学校からの友人の天木、 名門女子校に通う秀人の彼女・椿にも協力を仰ぎ、 5人での「名前探し」が始まった。 色々と探っていくうち、同じ学年の鉄道マニアの河野基が 秀人と同じ陸上部の小瀬友春たちから「いじめ」を 受けているらしいことが判明した。 あすなが偶然見つけた河野のノートに自分の死亡記事や 遺書らしきものが書かれていたことから、あすな達は 12月24日のクリスマスイブに自殺を図るのは 河野ではないかと思うようになった。 ある日の夜、体育倉庫に閉じ込められていた河野を 助け出したいつか達は、いじめの深刻さを痛感する。 いつか達は、自殺を回避するための第一歩として、 河野に自信をつけさせるための計画をスタートさせる・・・。 辻村さんの最新作です。 デビュー作の『冷たい校舎の時は止まる』は すでに自殺してしまった生徒の名前が思いだせず、 それを突き止めていくという話。 この作品、かなり設定かぶってるんですよね。 それに関しては、すごく不可解なものを感じてましたが 読み終わってみると、その狙いがよく理解できました。 これまでの作品と違って、主人公が力の抜けた感じの キャラクターなためか、「自殺」が軸となる重い設定で あるにも関わらず、ポップな感じの雰囲気があって、 時系列の移動もあまり気になるほどではないので かなり読みやすいのではないかと思います。 登場するキャラクターたちが本当に魅力的で メインの5人はもちろんのこと、鉄道マニアの 河野くんがかなりいい味出してます。 そして、あすなのおじいちゃん。すごく素敵です♪ あすなの家でやっている洋食屋「グリル・さか咲」が ほんとに雰囲気がよくて、あすなのおじいちゃんが作る オムライスやなんかがメチャメチャおいしいそうで 思わずヨダレが出そうになりました(笑) 「自殺を阻止する」ための行動をとっていくうちに いつかとあすなも自分の抱える傷やコンプレックスを 少しずつ克服していきます。 それぞれの努力の甲斐あって、一人も自殺者を出さず 無事にタイムリミットのクリスマスイブが過ぎ、 いつかたちのミッションはめでたく終了。 ・・・となるかどうか・・・(^_^;) この作品をもって、辻村さんの既刊分は全て読了です。 もし、これから辻村さんの作品を読もうと思っている 方がいるとしたら、声を大にして言わせてください。 『辻村深月作品は刊行順に読むべし!!読むべし!読むべし・・・』 エコーも効かせてみました(笑) 辻村さん作品は、登場人物のリンクが多いんです。 ヘタしたら、リンク元の作品を読んでないと 全く意味がわからないエピソードなんかもあるんで。 この作品も思いっきりそれがありました。 既刊順に読んでいけば、もどかしい思いをせずに済むと思います。 この作品を読む前には少なくとも『ぼくのメジャースプーン』 だけでも読んでおいた方がいいと思います。 本当の最後の最後は、すごくいい終わり方なんですが その前の出来事で、正直微妙な気持ちになりました。 これ以降は完全にネタバレになっていますので これから読もうという方はスルーしてくださいね。 (以下は背景と同じ文字色で書いているので 読む場合はドラッグして反転させてください) 『まず、第一のどんでん返し。 いつかはあすなに「自殺をするのが誰かわからない」と言っていたが、 それは嘘で、自殺をするのはあすなだということがわかっていた。 自殺が起きる日にちも、クリスマスイブではなく、1月。 祖父が倒れたという連絡を受け、あすなは教師の車で病院に向かうが 渋滞などにより祖父の死に立ち会うことができず、絶望から池に身を 投げてしまった、というのが真相。 あすな以外のメンバーはそれを知っていて、あすなの自殺を阻止する ための計画を密かに立て、そのために必要な人員を雇い入れた。 それが河野と友春。この二人は、実はイトコ同士で仲がいい。 「いじめ」はすべて、あすなの気持ちを強くしていくことが目的の お芝居だった。この二人には、それ以外にも重要な役割がある。 いつかたちのもう一つの計画は、もしもあすなの祖父が倒れた場合、 必ず死に立ち会えるよう、病院までの最速のルートを確保しておくこと。 そのためにいつかは急遽バイクの免許を取っていたのだ。 実際にあすなの祖父が倒れたという連絡が入り、まず、陸上部の友春が 学校の近くの神社に停めてあるバイクを猛ダッシュで取りにいく。 バイクを校庭まで乗りつけ、そのバイクでいつかがあすなを乗せて駅へ。 駅には椿が待っていて、すでに買ってあった切符を二人に渡し、 鉄道マニアの河野が調べぬいた分刻みの列車ダイヤにしたがって いつかとあすなは無事に祖父の元に辿り着いた―。 読んでいる途中で、自殺するのはあすなじゃない?とは思ってたけど まさか、友春による河野のイジメが全部お芝居だったなんてびっくり! いくならんでも、芝居上手過ぎでしょう。せめて河野が昔演劇部だった とかいうくだりがあったらよかったんだろうけど。 とはいっても、しっかり辻褄はあっているし、何より感動的。 河野たちのエピソードも、いつかの謎の行動の数々にしても、 あちこちにばら撒かれている伏線を回収していく流れは いつもながら「お見事!」という感じ。 真相がわかってから読み返してみると、「そういうことだったのか!」 と、もう一度楽しめるっていうのが、辻村作品の魅力ですね。 ただし、もう一つのどんでん返し。 これがちょっと微妙な気持ちになってしまった原因。 秀人が実は『ぼくのメジャースプーン』の「ぼく」だったことが判明。 秀人の彼女「椿」のフルネームは「椿史緒」つまり「ふみちゃん」でした。 「ぼく」には「もし[A]しなければ、[B]になる」という言葉によって 人を操る能力があった。「ぼく」こと、秀人がいつかに向かって 「例えば、今から三ヶ月後、自分が気になってる 女の子が死ぬって 仮定してみてよ。そうしたら自然と誰か思い当たらない?そういうのが ないなら、いつかくんの人生はすごく寂しいよ」と言ったとき この言葉の力が発動し、いつかは迷わずあすなの名を答えたという。 まるで、このタイムスリップ騒動も、いつかの懸命さも、すべて 秀人の力によって起きたこと、みたいになってしまっている。 これは正直、微妙だったな。これがなくても十分話は完結できるのに。 あくまでも、いつかの自発的な行動だった、と思いたかった・・・。 このオチというか種明かしは、『ぼくのメジャースプーン』を 読んでないと、絶対にわからない訳で、それもちょっとどうかと。 「ぼく」と「ふみちゃん」の成長した姿にお目にかかれたのは とっても嬉しかったんだけど・・・。 まあ、過去に「ぼく」が力を使って「ふみちゃん」を操ったと 思い込んでたら、実はそれは「ふみちゃん自身の意思の力だった」 というような前例もあったことだし、これはもう、捉え方次第かな・・・。 秀人と椿の他にも続々と過去の作品からキャラクターが登場。 『子供たちは夜と遊ぶ』『ぼくのメジャースプーン』からは秋先生。 『凍りのくじら』からは、郁也、多恵さん、理帆子。 『スロウハイツの神様』からは、チヨダ・コーキ(名前のみ登場) 唯一、『冷たい校舎の時は止まる』からはキャラクターの登場は ないんだけど、そもそもこの作品の存在自体がトラップになって 「また今回も自殺者の名前がわからない」って思い込まされた訳で。 そう考えると、総力をあげて、この作品を書き上げたんだなと思う。 辻村さんのファンにとっては、感動ものの集大成・・・・かな? 』 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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