前を向いて
PTA役員選出と学級懇談会の日。私は…やっぱりPTA役員の辞退を申し入れることにした。辞退は基本的には認められていない。辞退をするなら挙手し、起立して、皆の前で事情を説明し、その承認を得なければならない。娘だけならばPTA役員をやってもいい、どうせ学校にいるのだ。いろいろな先輩と仲良くなっておく手もある。が、体の弱い息子が一たび体調を崩せば、役員はおろか、日常生活だって狂ってしまう。おまけに、娘の耳の手術だって突然、予定が入る。そこで迷惑をかけるくらいなら、はじめから事情を話しておいてもいいだろう。そう。うちは他とは違うのだ。ずっと子どもに付き添っている家など、同じ1年生家庭ではいないではないか。『違うことを無理に隠したり、合わせたりしない手でいこう』この考えは、夫婦で散々話し合って決めたことだった。入学前。普通学級と決まってからも私の気分は晴れなかった。おそらく、特別支援学級と決まっても晴れなかったとは思うが。大袈裟な表現をすれば、どのスタンスでいくか、という感じだろうか。うちの子は皆と一緒です、的でいくか。障碍のある子も皆、一人の命、平等でしょう、的でいくか。うちの子は違います、こんなに違うから配慮してください、的でいくか。そして、結論をだした。どんなに理想を語っても、子どもがいじめられたら意味がない。同じだ、同じだ、といえばいうほど、違う部分が攻撃されるかもしれない。悔しいけど、ここは子どもを守っていこう。うちの子は皆と違います、違うから配慮もしてほしいし、違うことで排除したければ、どうか我が子をはじめ我が家には近づかないでください、的でいこう、と。実は、入学式の後。全員が教室にそろった状態で、うちだけ時間をもらい皆の前で夫が挨拶をした。「5回も手術をして、がんばってきました。耳の聞こえも悪いし、足もみなと違う靴をはいていたり、みなと同じようにできないこともあると思うけど、みんなと一緒に勉強したり遊んだりすることを楽しみにしています。保護者の皆様も、ご迷惑をおかけすることもあると思いますが、よろしくお願いいたします。」卒園式のスピーチも、息子の入園式の保護者代表あいさつも、全て私に押しつけてきた人なのに、この時だけは、オレが言う、と自ら言い出した。見たこともない堂々とした姿に、思ったものだった。『あぁ、この人も戦闘態勢なんだ』と。決めてからも入学式直前まで、まだ悩んできた。皆と違う、と言ってしまったら色メガネで見られるのではないだろうか。悩んで悩んで悩んで悩んで。でも、彼の堂々とした姿で悩みの全てが吹っ飛んだ。彼も私と同じ気持ちで小学校生活に対してくれようとしている。だったら、もう何も恐いものなどないではないか。私は挙手をし、事情を話した。夫ほどカッコよくは言えなかったけど、卑屈にだけはなるまい、と、前だけは向いていた、と思う。学級懇談会の後、昨日、話した女の子のママが来てくれた。自分の親友の子どもが難聴で人工内耳をつけている。だから、△△(娘の名前)ちゃんのことも身近に感じていたら、「ラボに資料を請求されたでしょ?実は、あそこのラボにお兄ちゃんたち2人が入っていて、冬子(仮名)も入りたいって最近言い出したんだけど、△△ちゃんが入るなら一緒に入る、って言ってるんですよ。」そんな話をしていたら、また一人、母親が近づいてきた。「どこで手術されてるの?大変でしょう?うちの上の子、心臓が悪くて。ペースメーカー入れてるから送り迎えしてるんですよ。」全員に理解をしてもらうのは、所詮、無理。少しづつでも。一人づつでも。そのためにも、私は辛いけど、あえて前を向いていこう。