鹿島茂の講演を聴く(その2)
鹿島茂の講演を聴く(その2) 氏は、6時5分に入場された。 開講一番、1時間の講演時間だとのたまわれる。当日は6時から8時までと聴いていたのだが、7時から質疑が始まり、その後、サイン会の予定なのだろうと納得する。 氏は、一七世紀のフランス文学が専門ではないと話されながら、パスカルに興味を持ったのは、同じく仏文の大家、河盛好蔵氏と共立女子大で席を同じくされたのが原因だとのたまわれる(鹿島氏は約30年間、共立女子大に在職)。 河盛好蔵氏。云わずと知れたモラリスト研究の大家である。その昔、「新釈女大学」がベストセラ-になったことでご存知の方も多いはずだ。 ただ、このモラリストと云う意味は、おいらたちが考える道徳家と云う意味とは根本的に異なる。 鹿島氏はのたわまれる。日本のモラリストは「お前は悪党だ」と云うが、フランスでは、「お前は悪党だが、おれも悪党だ」となる(らしい)。 実際、モラリストの代表は、モンテーニュ、ラ・ロシュフコー、パスカルなどで、モラリストたちは「人間とは何か」を探求し続けたのである。そして、それを突き詰めると、最後は悪に行きつくのである。 そのモラリストの思想を背景に成り立ったのが、バルザックやモーパッサンなどの19世紀のフランス文学である。悪の文学が大輪の花を咲かすのである。 ここで鹿島氏は、フランスの誇る政治思想家アレクシ・ド・トクヴィルの話しをされるのである。 お~、何という博識。資本主義陣営と共産主義陣営との冷戦以後は、トクヴィルに真相ありというのが、鹿島氏の持論である。 トクヴィルによれば、政治の最終形は民主主義であり、そのためには民衆を知らなければならない。その民衆の本質は善よりも悪だと説かれる。 トクヴィルの著書「アメリカの民主政治」は古典でありながら、今なお民主主義を考える場合に欠かせない教科書と云われる。トクヴィルは大衆の持つ愚劣さを早くから見抜いていたのだ。 彼の名言。「民主主義国家は、自分達にふさわしい政府を持つ」="In every democracy, the people get the government they deserve." だから、日本の政治はこの程度なのである。 さて、超訳ニーチェがベストセラーになったので、文芸春秋からパスカルについても同様の依頼が鹿島氏に話しがきたらしいのだが、氏の連載本数は尋常ではないので、なかなか原稿にならなかったようである。 しかし、鹿島氏によれば、仏文学者前田陽一氏の訳によるパンセ(中公文庫版)がしっくりこないので(前田氏は今上天皇の語学教育係。フランス語が出来すぎたという)、自ら訳すことを考えられたというのである(この項続く)。**********************************************謎の不良中年 柚木惇 Presents**********************************************