桜の森の満開の下
桜の森の満開の下 例年、花見の季節になると思い出す小説がある。 坂口安吾の「桜の森の満開の下」(昭和22年)である。 満開の桜の下には「屍体が埋まつてゐる」という幻想小説である。坂口安吾は梶井基次郎に小説作法を学んでおり、「桜の樹の下には」(昭和3年)に触発されて書いた小説と言われる(「日本現代文学大事典」明治書院。平成6年)。 小説は、鈴鹿峠の桜の森に住みつく山賊の話しである。 山賊は残忍な男で、街を襲っては亭主を殺して女をさらってくる。併し、山賊でさえ桜の森の満開の下に来ると、風もないのにゴウゴウ風の音がするような気がして恐ろしく、気が変になりそうになる。 その男が8人目の女房を、亭主を殺してさらってくる。最初は殺すつもりではなかったが、彼女のあまりの美しさにふっと殺してしまう。女は山に帰ると他の女房は全て殺せと言い、男は言われるままに殺すが、女の美しさが満開の桜の下を通るときの雰囲気に似ていることに気付く。 山賊は女と都で好き放題をするが、女が首を欲しがるので、人を殺しては首を持ってくる。併し、そのような生活が嫌になり、山に戻ろうとする。男は背中に女を背負って、鈴鹿の桜の森の下にさしかかる。 そのとき、女が鬼であることに気付き、女を絞め殺す。女の屍体の上に桜の花びらが散り積もるが、花びらを掻き分けても掻き分けてもその下に屍体はなく、ただ花びらと冷たい虚しさが残るのみである。 年を取っても、桜を見る度にこの屍体の話を思い出す。 自宅近くの菊名池公園の桜も今年の満開は早い。既に散り始めている。図書館からの帰途の夕方、この公園を通るので夜桜見物が毎日楽しめる。千鳥が淵までの桜の名所とはいかないが、それでも池を前にしての夜桜は絶景である(上下の写真2枚とも)。 やはり、満開の桜の下には、屍体が埋まっているのである。***********************************************************つるぎかずを Presents***********************************************************