月夜に夢を　　

面会日で土曜日から帰ってきていた雫が　なかなか車から降りてくれない。
施設に送っていった際　駐車場でのことだ。

彼女を入れると決めたときには　重度であることがかえって救いだった。
施設には行きたくない　家がいい　と泣いて嫌がるぐらいものごとがわかるとしたら
あたしはあのときどうしていただろう。
彼女は　母親であるあたしをそれと認識しているのかさえ定かではなく
迎えに行く際も　送っていく際も　まったく執着をみせない。
こちらが置いてきぼりをくったかのような気持ちになるほど
さっと　目の前のひと目の前の場所へと　身体と心をうつしていく。　

それが彼女なりの成長をみせるにしたがって
ときどき　こうして自分の意思を表出させるようになってきた。
しかも　言葉をもたないかわりに　全身で訴えてくる。

発作でもないのに重たく硬直させている身体を
無理矢理ひきはがすようにして車から降ろそうとする
そのときのあたしの感情をどう表現したらいいのだろう。

それでもおまえは母親か。

この気持ちを味わいたくなくて　面会しない親もいるのではないだろうか。


我が子を犠牲にして　あたしたちの生活はなりたっている。
そしてそれを　すっかり忘れているときすらあるのだ。日常に忙殺されるのをいいことに。

山だろうが　仕事だろうが　24時間介護の彼女と暮らせばありえないこと。
いま当たり前のように　あたしたちが手にしているものは　すべて彼女の犠牲の上にある。

一ヶ月のうち雫が帰って来るほんの数日　それさえ乗り切ればいい。
その間だけ　金魚鉢にしろ　写真立てにしろ　危ないものはしまっておけばいい。
服はよだれでべたべたに汚されてもいいものを着ていればいい。
部活も仕事も勉強もやりくりをつけて　リンもあたしも彼女の生活時間帯に合わせればいい。
買い物もあらかじめ行って雫の食べやすいものを思う存分そろえておけばいいし
床に落ちたごみを口にしてしまう彼女のために掃除機は念入りにかけておけばいい。

下駄箱から引き出しから　中のものを全部出されて散乱した部屋も　
排尿が自立していないため、あるいは唾吐きによって故意に排出される大量の洗濯物も
明け方から頻発する発作に対応するため　睡眠不足で痛い頭も
自分たちが食べたいものも　たまった仕事や勉強も　すべてあとから取り返せる。

生活をともにしたらこうはいかない。
あたしたちはもう　雫と暮らした元の生活には戻れない。
だからせめて　この　いまのフツウの生活が成り立っているのは彼女のおかげなのだと
そして　彼女たちに関わってくれている施設の人たちのおかげなのだと
それを忘れずにいなくちゃいけない　と　リンと話した。

まるで既得権を手放せないどこぞの政治家と同じじゃないか。


【6月17日（日）の記録】=======================
・本日の体重　　　　 ○○.2kg　　（6/8から-0.6g）　
・目標体重　　　　　 ○○.3kg　　（目標まで-3.9kg）
・ワッショイしたいもの　　　山用腕時計　
=======================================



そうなんです。雫が帰って来ている間は神経が張っているので何もできませんでした。
特に今回は　小さな発作が多くてまいりました。
台所仕事してても目は追いかけてなきゃいけませんから　踵上げする余裕もなく。
だからといって消耗して痩せるかっていとそうでもないから哀しいとこです。（苦笑）