199838 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

月夜に夢を  

月夜に夢を  

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2007.07.14
XML
カテゴリ:Mother
雫を連れて歩いていると 他人の視線が突き刺さる。
彼女が小さかった頃はまだあたしも若かったし 障害もそれほど目立たなかったために
「もしやあたしが美しいせい?」などと楽観的に思ってみたりもしないでもなかったが(嘘)
いまとなっては その可能性は100%否定される。

何しろ目立つのだ。
意味不明の奇声をあげ(彼女にしてみれば超ご機嫌のしるしなのだが)
身体を揺らして足取りもおぼつかなく 不自然な姿勢でよだれをたらしまくって歩く
あたしにしっかと手をつながれて 満面笑顔をうかべた 中学生の身体をもつ女子。
そりゃ目立って当たり前だわ。


朝から雨の今日 散歩にも公園にもいけず
六時から起きている雫が狭い家の中だけで終日もつわけもなく 
昼ごろには既に限界に来ていたために あたしは意を決して買い物に出掛けたのだ。

駐車場に屋根がついているそのショッピングセンターは 
さすがに休日なだけあってどこもかしこも混んでいた。
薬局で学校に持たせる歯ブラシを買い 牛乳が切れていたので食品売り場にも行く。
いったん車に荷物を置いて 図書館にも寄った。
児童書のコーナーの椅子に雫を座らせると 
それまでそこに居た子供たちが蜘蛛の子を散らすかのように居なくなった。
ひとり 就学前ぐらいの男の子が近くで本を抱えたまま固まって 雫をじーっと見ている。
「こんにちは」と声をかけても 返事がない。
図書館の係の中年の男性はうろたえた様子で 返却期日の紙を挟み忘れた。

ふっと 久しぶりに“ノーマライゼーション”という言葉が思い浮かぶ。
まだあたしが障害児の親になりたてで しかも若く社会経験も未熟で青臭かった頃
そりゃあもうがちがちに理想を掲げ 社会はこれを追い求めるべきだと考えていた。
それを社会に働きかけることが 
障害児を産んで自分の人生設計を狂わされたあたしの唯一すすむべき道だと思うことで
娘の犠牲になったかのようにどうしても思える自分自身を納得させたかったのであろう。

障害をもっていても当たり前のように地域で暮らせる社会に。
いや 地域が 障害をもっているひとをあたりまえのように認識できる社会に。

就学前に地域の保育園に通わせたのも その影響が大きい。
まだ頭が柔らかい子供のうちに 
一緒に居る仲間の中に 障害を持った子がいることが自然である環境をもてば
その子らが大人になったときには 社会は変わっていくのではないか。

あたしのそんな淡い期待と理想論は 立ちはだかる現実の前にあえなく消えた。
あたしの勝手な理想に付き合わされて 実際被害を受けるのは雫自身なのだと思い知る。
一年後の就学時には 迷わず養護学校を選ぶあたしがいた。
さらに地域から隔離して施設へ入所させたのだから まったく皮肉なことだ。


それでもいまも 
他人の視線が突き刺さることを知りながらもあえて雫を連れて人混みへ向かうということは
どこかで あたしはまだ青臭い部分を持った新米障害児の親のままなのかもしれない。
晒し者でも構わない。あたしと一緒に出歩くぐらいなら 雫にそうそう被害は無い。
どうかこの社会が 少しでも変わりますように。

テレビドラマで扱われるような ただ涙する世界だけの話ではなくて 
あなたの住む地域に 現実にはたくさん 障害を抱えているひとがその家族がいるのです。

だのに 会わないでしょう?めったに会わないでしょう?
雫と一緒にいない時間の方が長いあたしは どこへだって出没しているのに
まず会うことはない。
特に身体が大きくなれば みな雨の休日など どうやって過ごしているのだろう。



蛇足ながら 実はあたしのコイビトの一番自慢できるところは
雫と一緒に出歩くときに まったく平気な顔でいてくれるところなのだ。
近親者に障害者がいたわけでもない彼は 他人の視線が突き刺さる経験など持っていない。
ずっとそうであったあたしやリンとは違うわけで
それは彼にとってかなり苦痛なことなのではないかと察する。
だがそれをおくびにも出さない。
そんな彼を誇りに思う。その優しさに感謝する。
ほかの多くの許せないはずのことも許せると思えちゃうほど 
あたしにとってそれは大きなことだ。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2007.07.14 23:52:53
[Mother] カテゴリの最新記事


PR

Profile

月夜夢.

月夜夢.

Category

Calendar


© Rakuten Group, Inc.
X