アンタルヤ県青少年スポーツ局主催の夏期スポーツクラブの開会式があり、エミとナナを連れてサバンジュ・スポル・サロンに出掛けた。
7歳以上が基本条件のこのスポーツクラブに、エミとナナは今年初めて参加するのである。
3ヶ月という長い夏休み。日本帰国の予定もなく、またどこにも遊びに行くあてのない娘たちにとって、きちんとしたスポーツのレッスンを受けるまたとないチャンスである。
当初、昨年の夏に自力で泳ぎを覚えたエミにも、姉を見習って見よう見まねで泳ぎを体得しようとしているナナにも、今年こそはきちんとした水泳のレッスンを受けさせようと考えていた。
しかし、昨年9月以来、学校のバドミントン・クラブで週3回放課後に練習を重ね、新生クラブながら地元の大会にも参加して本格的なスポーツ活動を経験したエミには、青少年スポーツ局主催のスポーツクラブにバドミントンのコースが出来ると聞いて、迷うことなくバドミントンのレッスンを受けさせることにしたのである。
一方ナナは、学校の授業に週1回組み込まれているクラブ活動で、リトミック・ジムナスティック(リズム体操。新体操のこともこういう)&モダンダンスに参加しているので、その系統でレッスンをと思っていた。同じ青少年スポーツ局のクラブでジムナスティック(体操)のコースがあり、ナナはそちらを希望していたのだが、曜日、場所の関係で泣く泣く諦めてもらい、その代わり、ナナにも姉と一緒にバドミントンを経験させてみることになった。
夏休みが3ヶ月と長いので、この期間に子供たちにさまざまな経験をさせ、同時に親の面倒を軽減するため、どこでも有料のサマースクールが開校されている。
チョジュッククルブ(子供クラブ、子供教室)、スポーツクラブ、サッカークラブ、プールやテニスコート付きの4~5つ星ホテル、ターティルキョユ(休暇村)から、各区主催のスポーツクラブまで。
週5日。朝から夕方まで、朝食・昼食付きでさまざまなプログラムを用意しているヤズ・オクル(サマースクール)になると、月謝は300~400YTL以上?になるらしい。
が、当面緊縮財政を強いられている我が家にとっては、県青少年スポーツ局主催のスポーツクラブは有り難い存在だった。
なにしろ、週2日行われるバドミントン・コースの参加費は、7月初め~8月末の2ヶ月間で、たったの30YTL(約2200円)!人気コースの水泳やテニスでも、2ヶ月間で100YTL(約7200円)と、普通のスポーツクラブのほぼ半額である。さらに、無料!のコースもたくさんある。陸上、自転車、ボクシング、登山、レスリング、民族舞踊、ハンドボール、卓球、アーチェリー、チェス、ヨット、野球&ソフトボール、重量挙げなどなど。
学校の体育施設・体育教育が貧困なトルコでは、スポーツは学校外で有料で教えてもらい、やらせてもらうもの。経済的な理由でスポーツ経験をなかなか持てない庶民・貧困層の子供にもスポーツを経験させ、青少年のスポーツ人口を増やし、未来のスポーツ選手を育成・発掘することを目的としている青少年スポーツ局ならでは政策であろう。
ちなみに、すでにバドミントンのラケットを持っているエミ&ナナであるが、夏休み前に開催されたバドミントン連盟主催のレッスンでは、ドイツ製のラケットが無料で配布されたほどである。スポーツへの梃入れが盛んなトルコなのだ。
朝9時半から開催された開会式には、一部とはいえかなりの人数の父兄が集まってきた。(参加申し込み者は、最終的に35部門で750人にのぼったという)
マイクで案内があり、クラブに参加する子供たちだけが集合させられた。ほどなくして、エミが目を真っ赤にしてプンプン怒りながら観客席に戻ってきた。
「バドミントンなんか、どこにもないじゃない!」
どうやら、各部門ごとに子供たちが集められていたようなのだが、バドミントンがどうしても見つからなかったらしい。私は混雑を極める出入り口付近で、係りの人間らしい人にたらい回しにされながら、バドミントンはあるのかないのか、どこで集まっているのか訊き回った。
こういうところがまったくトルコ的なのだが、インフォメーションも、会場整理をするスタッフも不在で、カユット(登録手続き)と書いてあるデスクに詰め寄っても要領を得ない無能が座っているだけ。最後に「バドミントン」と書かれたプラカードが見つかり、それをナナに持たせての入場となった。
つまり、バドミントンは不人気だったのか、エミ&ナナ以外に誰も、担当コーチさえも!来ていなかったのである。
実は、トルコではバドミントンはまだまだ知られていないスポーツなのである。ラケットを持っていると「テニス?」と訊かれる。「バドミントンよ」と答えると「何それ?」という反応が返ってくる。羽のついたボール(シャトルのこと)があって、ネットを挟んでそれを落とさないようラケットで打ち合うのよと説明するのだが、ピンと来ない人が多い。大卒の学歴のある人々でもそれは同じである。
ふたりきりの「選手団」はさも所在無さげ。プラカードを抱えてしゃんと立っているナナに比べ、エミなんか遠目にも不機嫌極まりない顔でそっぽを向いている。やがて大会などで顔見知りのふたりの女の子が後ろに並び、エミの顔にもようやく安心した表情が浮かんだ。
会場にいる全員が起立、直立不動の姿勢で国歌斉唱を待つ静寂の時、ちょっとしたアクシデントが。
水泳の選手団の先頭にいたわずか5歳の男の子が、静寂を突き破り突然泣き声で「チシム・ゲルディ~(オシッコ~)!チシム・ゲルディ~(オシッコ~)!ワアアーーー」といって泣き出してしまったのだ。会場には微笑み、苦笑が広がる。
「ババ~(パパ~)!チシム・ゲルディ~!」泣きながら父親の元に男の子が駆け寄り、慌ててトイレに連れ去られると、待ってましたとばかりスピーカーから『イスティクラル・マルシュ(独立行進曲)』が流れ出した。
そんな「事件」があって、この男の子は一躍開会式の人気者に。入れ替わり立ち替わり記者、カメラマンたちにマイクを突きつけられたりカメラを向けられたりしていた。
その後、キックボクシングのデモンストレーションや民族舞踊の披露(練習着のままなのが残念)もあって、開会式はなかなか大掛かりなものに終わった。
娘たちのバドミントン・コースは、来週火曜から始まる。火曜・木曜の週2回、1回が3時間というレッスンである。
最初バドミントンに難色を示していたナナが、初回からレッスン拒否という態度に出るのではないかと少々心配ではあるが・・・・
ナナがバドミントンを気に入ってくれれば、行く末は、「ジャポン・バドミントンジュ・カルデシレル(日本人バドミントン選手姉妹)」として注目を浴びたりして・・・・
なんて、夢想しないでもない私であった。