[第3ステージ]ホロゴンキーワード3 ホロゴン劇場はときにドラマチックなのだ
私の母は大変な洋画ファンでした。大人の映画に小学校低学年の私を連れて通ったのですから、その大変さはちょっと異常なほど。もっとも当時はベッドシーンなんて危ないシーンはかけらもなくて、まさに現代の韓流ドラマのように、清純かつ真摯でしたから、私の情操教育に害を与えることはなかったようです。本人がそう言っているのですから、これは信じていただく他はないのですが、それだけでなく、おかげで、私の性格の中には、映画的要素が多分に織り込まれてしまったようです。たとえば、私には、ときに、事態を現実以上にドラマチックにとらえる向きがあります。眼前の光景を映画的視点から再構成してしまう傾向もあります。そのせいでしょうか、映画の一シーンのような光景に出くわすと、やたらと嬉しくなってしまいます。この写真をご覧ください。この写真をはじめて見たとき、ホロゴンを手に入れた理由を我ながら初めて知りました。広く撮れるから、ホロゴンを欲しかったのではないのです。深く撮れるから欲しかったのです、よい映画のように。洋画の傑作の魅力は、背景までパンフォーカスされた、くっきりと切れの良い情景描写にあります。情景の前後に彫りの深い登場人物たちが配置され、まさにドラマチックに出来事が進行します。この写真は、まさにその典型ではないでしょうか?台湾の丘陵都市九ふんは、名監督侯孝賢の傑作「悲情城市」の舞台となったところ。その日は雨模様でした。今は廃業した映画館昇平戯院はいかにも古き良き映画時代の雰囲気を残しています。同じ監督の作品「恋恋風塵」の看板をちょっと眺めた、一群の大学生たち、くるりと反転して引き返し始めたところへ、私が折良くぶつかったのです。先頭の青年の男らしい面構えに感じた私、思わずホロゴンを青年の顔間近に持って行ってしまいました。そのカメラがあんまり変な形なので、驚いたのでしょう、目を見張る彼。背後の人物群の中からぐっとせり出して、存在感たっぷり。まさに、ドラマチック!