テーマ:にゃんこの不思議(33)
カテゴリ:肝臓王子
2016年の秋は唐突に始まった その年の夏は宿命のごとく地表にしがみつき 衣替えができない人々をあざ笑うかのように列島に熱波を振りまいた そんな排他的な夏に翻弄されていたのは人間だけではない 猫たちもまた困惑していた なにしろ急激かつ暴力的な気温の低下に見舞われたのである 当然のように彼らは暖を求めることに貪欲になった あるものは少しでも陽の当たる場所で惰眠を貪り あるものは暖かい布団の上で柔らかな眠りに包まれた またあるものは冬の寝床の居心地を確かめることに余念がなかった そんな中 彼一人だけが異質な空気の中にいた そこにはどれだけ目を凝らしても人間味というものが見当たらなかった 遥か何万年、何億年もの太古の昔から 生物の緩やかな進化を見守り続けた化石燃料の成れの果てが横たわっているだけだ それは何の温かみも放ってはいなかった 困惑を巧妙に押し隠したまま僕は彼に問うた 「いったいぜんたい、何だって君はそんな冷たいところに入っているんだろう?」 答えは返ってこなかった 仕方がない 彼にだってわかりはしないのだ ことの発端は2年前だった すでに地球温暖化の影響が顕著に表れていたとはいえ ときおり冷ややかな風が頬を撫でる10月の初めに 彼はひんやりとしたガラス戸に季節外れのナメクジのようにへばりついていて その執着は半端ではなかった この時家人は当惑しながらも 「この子は類い稀なる暑がりなのだろう」と 老い先長い我が子の天命を僅かばかりの憂いと大いなる諦めを持って受け入れたのであった だが彼はまともではなかった まともな猫々は暑いのにむやみやたらとコタツに潜り込んだりはしない 少なくとも「まともな暑がりの猫々」はだ ゆえに「ボフリ」という不吉な音とともに彼が飛び出してきて 戸棚に突っ伏して寝ていたとしても 人々は何も見ないふりを装うことに徹した 世の中には決して直視してはならない矛盾というものが存在するのだ というよりそれは矛盾ですらなかった それは救いようのないカオスであり もはや人々の遺伝子に組み込まれた宿命ともいうべき終わりなき命題だったのだ なので 日々更新する「この秋一番の冷え込み」を物ともせず 冷たいプラスチックの籠を満喫する彼が たとえ夜半ともなるといそいそと人間の布団の中に潜り込んできたとしても ーーーーーそしての漆黒の闇を切り裂くようなスピードで飛び出して行ったとしても それは飽くまで形而上学的な問題でしかなく 我々には考えるほどの時間さえ必要なくなるのである 反して愚直な人々はこう言うのだろう 「彼は甘えたいに違いない」 事実、彼が人間に寄り添う時に喉を鳴らす音は馬鹿げてでかい まるで10台のキャタピラー戦車が回転速射砲をぶっ放しながら迫ってくるようなものだ きっと喉の音を調節する機能が壊れているのだろう 誰かが膝の上で愛でられていると、突進してきて相手を跳ね飛ばし人間の顎に頭突きを食らわす このようにして、彼は兄弟分とはまた別の次元で人間の愛情を仕切っているのである なにしろ幼少時はチュパカブラだったのだ マイペースなように見えながら一方で貪欲に愛をむさぼる彼は ここでもまたアンビバレントな存在なのである 僕の頭が痛み始めた 「人を困惑させることに関しては僕はすでにベテランの域に達しつつあるんだ」 僕は彼に聞こえないぐらいのため息をついて言った 「やれやれ」 ノーベル賞、メジャーすぎて取れないのかな・・・ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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