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祝祭男の恋人

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カテゴリ:小説をめぐる冒険
               ティム・オブライエン(1946~)
             1968年から69年までヴェトナム戦争に
             歩兵として従軍。
             作品は『本当の戦争の話をしよう』
             『ニュークリア・エイジ』、『世界の
             すべての七月』など。いずれも、
             村上春樹の訳出で知られる。



―――さて、今日も小説家についてのお話を伺いたいと思うんですけれど。
確か前回でしたか、祝祭男さんは、開高健の名前を挙げられた、と思います

祝祭男】 ええ、そうでしたよね。

―――で、そのときはちょっと聞きそびれてしまったんですけれども、
開高健の名を挙げたってことに関していえば、あるいはこれはむしろ、
『ヴェトナム戦争』そのものと、実は大きく関わっているんじゃないか、
って気がなんとなくするんですけれども。

祝祭男】 ええ、そう言われてみると、確かにそうかも知れませんよね。
で、そういう風に考えていくと、私としてはティム・オブライエンっていう作家に思い当たる訳なんですけれども。

―――ああ、あの村上春樹さんの訳で知られている方ですよね。

祝祭男】 ええ、そういうことになるんだと思います。
彼は実際1968年から69年に掛けてヴェトナム戦争に歩兵として従軍していますよね。その他にあの戦争に従軍した作家ということで考えてみると、
トバイアス・ウルフ、っていうことになるんだと思うんですけれど、
やはりティム・オブライエンの存在っていうのは格別なものがあるような気がします。

―――確か去年、村上春樹さんの訳で『世界のすべての七月』っていう単行本が文藝春秋から出版されていましたよね。

祝祭男】 ええ、それ以前には他にもいくつかあるんですけれど、
今日は同じ文藝春秋から文庫化されている『本当の戦争の話をしよう』の中に収録されている『レイニー河で』っていう短編について考えてみたいと思うんです。

―――『レイニー河で』ですか?

祝祭男】 ええ、これはミネソタ州とカナダを隔てる河らしいんですけれど、
短編の中ではそこが舞台になっています。そして、召集令状を受け取ったティムが、ヴェトナムへ行くか、それとも徴兵忌避をしてカナダへ逃亡するか、
という葛藤の期間が描かれているわけです。
私としては、初めてこの作品を読んだとき、あ!これはすごい!っていうか、
本当に驚いてしまったようなところがあるんですよね。
もちろん探してみればこういうことを描いた作品っていうのは他にも見つかるかも知れないんですけれど、ある一人のインテリジェンスのある若者が、
ヴェトナムに行くか行かないか思い悩み、そして結局は戦争に駆り出されてしまう、というような秘めた部分を描いた小説は、
ちょっと他にはないぜ、っていう風に、本当にガタガタ震えが来るって感じだったんです。

―――へえ、そうなんですかあ…

祝祭男】 で、たとえばそれで思い出すのが、ヘミングウェイの初期の短編『兵士の帰郷』ってやつなんですけれど、
これはちょっと時代も違うし、こっちは戦場から戻ってきた兵士、
という設定なんです。ただ、その倦怠的なムードっていうのがある種忘れがたい。でも、『レイニー河で』は一方ではセンチメンタルな風合いを持っているけれども、同時に非情な切実があるんですね。

―――ふうん、なるほどね。ただ、訊いていていまいちよく理解できないのが、
どうしてヴェトナム戦争なのか?ってことなんですよ。
言ってしまえば、あの戦争は我々がリアルタイムに体験したわけでもないし、
もっと感情的にコミットメントできるもの、たとえば湾岸戦争でもイラク戦争でも、そういうものが目の前にあるんじゃないかって気がするんですけれどね。

祝祭男】 ええ、確かにその通りかも知れません。
ただ、私が思うのは、『レイニー河で』から私が受けたショックのようなものを、イラク戦争を描いた作品から受ける読者っていうのは、
おそらく我々の次の世代っていうことになるんじゃないか、
という風にね。

―――そうなんでしょうか?よく理解できませんけれど

祝祭男】 多分それは、「アメリカ」っていう国や文化がいったい何であったのか、と考えることと繋がって来ると思うんですよね。たとえば私たちは、
これまでヴェトナム以後のアメリカ文化、戦争を描いた映画、
それこそハンバーガーからディズニーに至るまで、大量の「アメリカ的」なものを摂取してきていると思うんですよ。

―――う~ん、それはちょっと飛躍しすぎているような気がしますけど、
ひとまず今日のところはティム・オブライエンに話を戻してみたいんですけれど

祝祭男】 そうですね、まあ、もっとすっきり言ってしまえば、
意識的、無意識的にかかわらず、非常に私にとっては気になる作家、
だということになるんだと思いますよ。

―――なんだか、まだまだ話し足りないことがたくさんあるみたいですけれど、
私には受けとめきれないし、共感もできないかもしれないので、
今日はここまでにしたいと思います。
それではまた!



                 聞き手 祝祭男の恋人





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Last updated  Mar 20, 2005 10:22:23 PM
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