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カテゴリ:世界の記憶
―――さて、今日は祝祭男さんの好きなキーワードってものをお尋ねしたいわけなんですけれど。
まあ、なんというか思い付きなんですが(笑)。 祝祭男】 キーワード、っていうとどんなことになるんでしょうね? ―――たとえばそうですね、この言葉が入ってる本の題名は、ついつい買ってしまうとか、どういうわけか字面がいい、という類のものでしょうか… 祝祭男】 なるほどね、そういう発想法は、割と詩の領域に近い感じがしますよね。言葉の響きとか、文字の形から喚起されるものを軸にして考えていくというようなことですね。 ―――私としては『惑星』って言葉が好きなんですけれども、 『恋する惑星』とか『惑星ソラリス』とか『化粧惑星』とか、ついつい手が伸びる(笑) 祝祭男】 すると、それを一つのキーワード=鍵、 として見ると、どういうことになるのかってことも問題になりますよね。 ―――特に私個人の内面性と関連はないかも(笑) ただ『惑星』の姉妹編で『遊星』という言葉もいいですね、 なんかこう行き場のない、宙ぶらりんな感じがして。 祝祭男】 そうですね、 要するに、そのときそのときで何が自分のテーマになっているか、 ということなんだろう、と思いますよね。 失恋したときは『失恋』という言葉に敏感ですし。 ただ、そういう具体的な要因がないのに何か引っ掛かる、 というのは、あまり意識していないところでの自分の内面とも関連してくるってことで面白いですね。 ―――なるほどね。 祝祭男】 そういう意味では、小説なんかが「感傷主義」を母体に発展してくるみたいに、私の中でもいろいろとキーワードが変化しているような気がしますよね。 たとえばずっと若い頃はやたらに『郷愁』という言葉が好きだった。 それでヘッセの同名小説を読んだりする。それから似たようなもので、 『記憶』という言葉も気がかりでしたよね。 ただこの言葉に関しては、心情的なアプローチから、 歳を重ねるに連れて、より科学的なアプローチに変わってきたところはあります。 ―――大人になった、ってことでしょうか? 祝祭男】 さあ、根本的なところは何も変わらないような気もしますけれど。 あと、理由もなく魅惑される言葉、 つまり、ついつい本を手にとってしまうキーワードとしては、 数年前に『都市』という言葉がありましたよね。 ただこれも、『郷愁』が名を変えただけのセンチメンタリズムが濃厚だと思いますけれど。 ―――でも、多分、そのキーワードに反応するだけの、 「裏ストーリー」が祝祭男さんの中にあるってことですよね? 祝祭男】 どうなんでしょう? あるいはそういう楽屋裏を言葉にしてしまうと、 ものすごく陳腐だったりするんじゃないか、と思うわけなんですけれど、 それに現実との誤差がたくさん潜んでいる、っていうか。 たとえば『城壁都市』とか『貧民街』とか、 もの凄く雑多な、どこかメルヘンチックなものを喚起する言葉がありますが、 実際は全然違うわけでね。 ―――ふんふん。 祝祭男】 だからまあ、ひとまず現実はおいておいて、 言葉の喚起するままに話していくと、 ブリューゲルの描いた『バベルの塔』を見るときの快感、 無数の人間が同時的に重層的に存在する、という安堵感に繋がってくるんですよね。前々回の「群像劇」と同じで。 だから私が『都市』という言葉に惹かれるのは、 やはりどこかでそういうものを求めているってことだと思うんです。 ―――なるほどね。 祝祭男】 たとえば、川本三郎さんなんかが、東京の都市論についてよく書いたりしていますが、あそこにはやはり強烈な感傷があるわけで、 永井荷風とか、大正ロマン的なところにどうしても遡ってしまう。 で、私のなかにもそういう懐古的な気風があって、 『東京風景』でしたか、あるいは『映像で見る昭和史』とかでもいいんですけれど、今はない街の風景を見るのが好きだったりするわけです。 ―――ああ、そういうビデオもレンタル屋にありますもんね。 祝祭男】 ただ、そういう映像を見るってことの中には、 これはちょっと脱線ですけれども、 「ああ、ここに映ってる人はもうみんな死んでるんだな!」というような奇妙な感慨があるんですよね。あるいは「ああ、こんな虚しいものに当時は夢中だった!」というような。 まあ、勝手にやってくれ、っていうようなのぞき趣味ですよね(笑) ―――うんうん、「あ、この人はもう死んでるな」とは思いますよね。 いくらなんでも100年経ったら死にますし(笑) なるほど、『都市』については、また話しましょう。今日はこのへんで。 それではまた! 聞き手 祝祭男の恋人 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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